カウンセリングルームから見える風景
40歳から外国語を学ぶ

こんにちは。香港でカウンセラーをしている藤森です。
海外に住んでいると、外国語を習得する意欲が高まる方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。または、生活上の必要に迫られて、学ばざるを得ない方もたくさんいらっしゃると思います。語学習得は、早い時期に始めることが大きなアドバンテージになります。そして、うらを返せば、年齢の高さは、新しい語学を習得するにあたっての大きな壁になります。

私は、40歳少し手前で、普通話(中国で使われている標準的な中国語)を学び始めました。きっかけは、香港に移住してからの生活の変化です。日本ではフルタイムで忙しく働いていた日本での生活から一転、香港生活も慣れてきたのに、当時は仕事がそれほど忙しくない。当時はそんな生活の変化に焦りを感じていました。「どうせなら、何か身に着けよう!」と思って始めたのが普通話でした。子どもも学校で普通話を学び始めていましたし、「宿題も見てあげなくちゃ」という気負いもありました。

しかし、学び始めた当初は、自分の学習能力のなさに挫折感を覚えるばかりでした。なんせ、聞き取れない!短い音節の中にあるはずの単語が聞き取れない、同じ音に聞こえるのに、イントネーションの違いでまったく別の言葉になってしまう。また、漢字として見れば意味が取れるのに、音だけ聞くと全くお手上げになってしまう!そのギャップが衝撃的でした。「聞き取れない」というのは、年齢のせいもあったと思います。そして、年齢の壁を言い訳に、日常の忙しさに紛れて、普通話の習得は一向に進みませんでした。

転機になったのは、香港を離れて日本に帰る友人たちを見ている中で感じたことです。「今、香港を去ることになった時に、もっとやりたかったと思うことは何だろう。」と自分に問いかけてみたのです。私の場合、一緒に太極拳をする中で、英語をあまり話せない人達がたくさんいて、その人たちといまだにコミュニケーションが取れないことでした。中国語で単語だけでも言葉のやり取りができれば、もっと笑顔で気持ちよく一緒にいられるのに…。

以前のなんとなくの目標から、具体的な人の顔やその人と言葉を交わす場面がしっかり定まった時、ようやく再度、やる気スイッチを押すことができました。今度は、だらだらしないように、いつか受けようと思っていた認定試験に申し込んでしまうことにしました。あえて、自分のレベルよりちょっと高いHSK(漢語水準考試:中国の教育部が認定する国際的な中国語の検定試験)に申し込んでしまい、申し込んでから、あわてて参考書や過去問を買い始めました。試験勉強と言えば、昔は机に向かって、CDプレーヤーで教材の音声を聞きながらという学習スタイルでしたが、今は、音声もMP3ファイル。スマートフォンやパソコンから流して、料理の合間や移動のための隙間時間にちょこちょこ聞いていきました。学習能力は20代より下降しているかもしれませんが、学習の工夫やスタイルは、20代よりも進化しているわけです。そんなこんなで、ようやく先日試験も受け終わりました。最初はまったく聞き取れなくて、過去問を見て青ざめたのが、つい2か月前。試験会場では、完全には聞き取れないまでも、自信をもって回答欄を埋めている自分がいました。

「人生100年時代に備える」なんて聞いたことはありませんか?「Life Shift 100年時代の人生戦略」というビジネス書の中で、リンダ・クラットン教授が説いている考え方です。彼女の主旨は、かつてのように20代までに学習を終えて、60歳の定年を目指してひたすら働き続けるという人生80年の見通しでは、これからの時代には対応しきれないという内容です。100年生きるという見通しの中で、学生時代を終えても、こまめに学び続けて新しい環境に適応していく力をつけていく中で、人生はより健康に幸せに生きていけるというものです。(詳しくは講演会の内容をご覧ください)100歳まで生きるかどうかは正直わからないけれど、新しい生き方、働き方、健康で豊かな生活とは何なのかを考えさせてくれる画期的な主張だと私は思います。

生涯学ぶ。そうはいっても、学びのスタイルは、加齢とともに変化せざるを得ないだろうと思います。20代までに持っていた記憶力・習熟速度は、40代では望むことができません。でも、40代には40代の、年齢が上がってからはそれ以降の学びのスタイルがあるのではないかと思います。私の卑近な例でいえば、以下の3つがポイントになりました。

自分の興味や楽しみに絡めていく
学びの内容を自分の関心事項と絡めていくことが大事です。私の場合は、近所のお年寄りと太極拳をしているために、ご近所に香港人・中国人の顔見知りがたくさんいます。多くの方は、英語を話さないので、片言でも普通話が話せることが、コミュニケーションをスムーズにしてくれます。「いつも声をかけてくれるあの人と言葉を交わしたい。」そんな具体的な相手や場面設定が、漠然とした動機を、より具体的で達成できる目標に変えてくれました。また、太極拳を学ぶにあたっても、中国語ができるに越したことはなく、「いつか中国まで習いに行ってみたい」なんて、楽しい目標がさらに膨らんでいくのです。自分の興味や楽しみに直結する学習は、やっていて楽しみがある、モチベーションがある、具体的な目標が目に見える…といろんなメリットがあります。

生活の中で、学習をルーティーンにする
「忙しくて、時間が取れない。」というのは、多くの人に共通する悩みです。勉強することがお仕事だった学生時代とは違い、多くの人は、忙しい本業の中からどんなふうに時間を作っていくかが、課題になっていることでしょう。だからこそ、日常生活の中で、無理なく、頻度高く、学習内容に触れられるような工夫をしていくことかと思います。私の場合は、自分に合ったテスト教材を活用して、生活の中の細切れの時間を生かして、成果が見られました。過去問を繰り返しやることは、「私にはやっぱり聞き取れない」という絶望感に圧倒されずに、とりあえず、選択肢を選ぶためにキーワードを必死に拾う姿勢につながり、結果的に聞き取り能力自体もよくなりました。人によっては、Youtubeなど、楽しめそうな動画やTVプログラムを毎日観るのがいい人もいるでしょう。一緒に学べる仲間が見つかる、語学学校で実力をつけた人も知っています。その人にあった、毎日続けられるものが見つかれば、それが上達の近道になります。

面の皮は厚く、「やめない」という姿勢
勉強を始めた当初は、あまりの進歩のなさに、自分で自分に絶望しかけました。今思えば、短期集中で結果が見えた10代、20代のマインドから抜けていなかったのでしょう。幸い、40代の私は、「勉強するのをやめない」というくらいの緩さで、ダラダラとした学習を続けることができました。私の聞き取り能力が目に見えて伸びたのは、ここ2カ月ですが、その前に6年ほど、勉強をしたりしなかったりのダラダラした期間もあるのです。その6年間をやりすごせたのは、年の功だったのかと今は思います。失敗しても使い続けること、言い損ないを笑いとばすことができる。この面の皮の厚さは、40代の私が習得したスキルなのかもしれません。

20代には20代の、年齢を重ねた人にはその人の学びのスタイルと工夫があると思います。海外生活には、文化の壁、言葉の壁などたくさんの壁があります。それに加えて、人によっては、私のように年齢の壁も感じている方もいるでしょう。目先の壁を越えて、毎日の生活を豊かに過ごすこと、私はそんな風に生きていきたいです。

 

Suomi Fujimori
臨床発達心理士。2012年より香港に移住。個人・カップル・ファミリーを対象としたカウンセリングを、日本語・英語で提供しています。

 

ページトップへ戻る