—003— 空想の友達

白井純子


愛知県出身。大学では国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得し、現在保育士としてパートタイムで働いている。

国際結婚をしたカップルが子どもを授かった時、まず考えなければならないのが、どの言語で子どもとコミュニケーションをとるかという問題だ。我が家でも第一子を妊娠中に夫婦で話し合い、日本語で話すことに決めた。バイリンガルを狙って、結果的にどの言語も中途半端になることを避けたかったからだ。ケースバイケースだとは思うが、我が家ではこの選択をしたことで、結果的に子ども達がかなり幼い頃から意志の疎通ができ、コミュニケーション不全によるストレスが少なく済んだ。これが子ども達の情緒の安定にもつながり、ありがたいことに、外出先で泣きわめかれて困り果てるという経験はほとんどない。ただ、香港で生活しているにもかかわらず、母国語が「日本語」だという子ども達には多少の苦労をかけてしまった。

次男が、長男が通っていたローカルの幼稚園に進学して間もなく、「クラスメイトに日本人の男の子がいる」と言い出した。私は飛び上がって喜んだ。2歳から通園していた長男は、広東語でクラスメイトや先生と話せるようになっていたが、3歳から通園を始めた次男は、広東語の習得が上手くいかず、毎日スクールバスで泣いた。寂しい思いをさせているんじゃないかと、日々胸が張り裂けそうな気持ちだった。幼稚園で日本人のお友達ができることは本当に心強かった。しかし、幼稚園の先生に尋ねてみると、そんな子どもはいないという。私はショックだった。次男に嘘をついてる様子はない。そのお友達の名前も教えてくれた。日本人らしい名前。真っ先に私の頭に浮かんだのは、「寂しさゆえに空想の友達を作ったのかもしれない」というものだった。そこまで追い込んでいたのか…。私は夫と相談して、1年後次男を近所のインターナショナル幼稚園に転校させた。日本人幼稚園に入れてやりたかったが、地理的な問題で難しかったからだ。ただ、転校先の幼稚園は、彼にとって居心地の良い環境だったので、結果オーライだ。

後に、保育士の資格を取るための勉強をしていて知ったのだが、「空想の友達」は幼児期にはまま起こる現象らしい。発達心理学者や精神分析学者の間では昔から知られているそうだ。子どもが日々直面する現実の困難や辛さを乗り越えるためのクッション的役割を果たすらしい。後に創造的な想像力、適切な社会性などの獲得に向けて重要な機能を果たすという、肯定的な側面が指摘されている。確かに、次男はとてもクリエイティブな子どもに成長している。
 もしもあなたの子どもが突然、いもしない人物や生物の存在を訴えたなら、「嘘をつくな」と頭ごなしに叱らないでほしい。彼らなりに心のストレスを解消しようと努めているのかもしれないから。そして、案外、創造的で社交的な人間に育つかもしれない。