—004— 「家族飯」

白井純子 

愛知県出身。大学では国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得し、現在保育士としてパートタイムで働いている。

先日、家族で香港に帰省した。あの街に戻ると、忘れていた色々な気持ちを思い出す。


 香港島で友人家族に会い、お茶をしながらおしゃべりをした後、彼らを黄大仙まで車で送り、その足で彩雲の家族を訪ねた。金曜の夜なので香港から九龍へ抜けるトンネルは大渋滞。友人たちには1歳直前のベビーがいる。窮屈な車に閉じ込められて不快だったのだろう、泣いたりぐずったりしてママは明らかに疲れた様子だった。「ああ、分かる。100パーセント分かる。今のこのママの気持ちが私には痛いほど分かる。」そう思った。


 香港人にとって家族が集まって食事をすることはとても大切なイベントだ。香港人は、日本人には想像できないほど家族の繋がりが強い。これはもちろん良いことだと思う。ただ時に、幼子を抱える日本人の嫁には、頻繁に行われる「家族飯」が大きなストレスになる。しかも、週末の渋滞にはまり、タクシーの中で1時間以上ベビーを抱き、ぐずる子をなだめ、車酔いする子を励まさねばならない状況ではなおさらだ。レストランについた時には顔は青ざめ、食欲は失せている。そして、帰りのタクシーでは、笑顔で楽しく家族と食事することができなかった自分に自己嫌悪を感じ反省する… 今となっては遠い昔の切ない思い出。今回、香港の夜景を見ながら車の中でベビーの泣き声を聞いていたら、やるせない気持ちがよみがえった。そして、「あの頃はよくがんばったなあ」とどこか清々しい思いさえ感じた。我が子がベビーをあやす姿を見て、感慨深かった。


 私の夫は基本的にはいつも、私と子供たちを優先してくれる。「家族飯」の回数も他と比べれば少なかったと思う。干渉されることが苦手な私のために、両親の住む町から離れたところに住むことを了承してくれたことも有り難かった。おかげで、のびのびと自由に生活し、誰に気兼ねすることもなく自分流の子育てができた。まあ、「家族飯」までの道は遠かったのだけれど…。両親(特に義理母)には申し訳ないが、私がブレずに自信を持って子育てができたのは、夫が整えてくれたこの環境があったからこそだと思う。


 日本に帰国して3年半、香港に帰省する時にはなるべく両親に会いたいと思うようになった。子供たちは成長して、手がかかるどころか荷物を持ってくれるようになり、彩雲までの道はグンと楽になった。今なら笑顔で「家族飯」を楽しめる。