—033—映画『十年』

白井純子 

愛知県出身。大学では国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得し、現在保育士としてパートタイムで働いている

 長男のリクエストで観に行った映画『十年』がすごかった。この作品は、是枝裕和監督が総合監修をしている。5人の新人監督がそれぞれ十年後の日本を想像して作ったショートムービーによるオムニバス映画だ。テーマは、高齢者の安楽死、AIによる子ども達の統制管理、デジタル社会、原発事故後の世界、徴兵制… 正直重いものばかり。私は常日頃から「未来は楽観できない」と考えている人間なので、上記のテーマについても関心が高い。子ども達にも、「平和ボケに気をつけよ」と事あるごとに伝えている。『十年』の予告編を見た長男が「これ見たい!」と興味を示してくれた事は嬉しかった。

 長男の心を動かしたのが「美しい国のために」と書かれた徴兵制スタートを告知するポスター。長男には韓国人の同級生がいる。韓国では未だに徴兵制が存在し、将来的に徴兵の義務を負うことへの不安や戸惑いを彼から聞いていたようだ。世界が平和から分断に動き始めている今、何が起こるかわからないということを、子どもながらに感じている。だからこそ、彼らの世代にとって大きな問題となりうる「徴兵」というテーマに強く心が動いたのだろう。映画の中に「美しい国のために若者が死ななきゃならないなんて、そんな国美しくもなんともないじゃない」というセリフがある。今の日本ではこのセリフに対して賛同する人ばかりでなく、「非国民」と反感を抱く人も少なからず存在するだろう。長男は徴兵には行きたくないと言った。時代が逆行し、再び若者が戦地へ送り出されることがないよう、そして、子ども達が人生を自由に生きる権利を奪われることがないよう、切に願う。

 私の心に残った作品は老人の安楽死をテーマにしたものだった。作品自体は、国が低所得層の老人をターゲットに国の財政維持のために進める安楽死計画について描く。老人の尊厳に対する問題や社会の行きづまり感など、弱者を切り捨てて行く社会のあり方を批判的に描いている。ただ私は、こんな制度も案外悪くないと思いながら見ていた。長生きしたい人は、ぜひとも頑張っていただきたいが、私はそこそこ生きて孫の顔でも見られたらもう大満足だ。痛みもなく眠るように天国に連れて行ってくれる方法があるのなら、年老いた私はきっと飛びつくだろう。安楽死がすでに合法化されている国も実際にあるので、今後は世界に広がっていく可能性が高い。国からのお達しで安楽死を強要されるのは御免だが、選択肢の一つになることはあってもいいのではないかと思った。


 子どもと一緒に映画を見た後、感想を話し合ったり、テーマについてどんな意見を持ったかを語りあったりするのは、子どもの思考力や表現力を養うのにとても役立っていると思う。また、映画鑑賞は社会や世界に目を向ける良い機会にも成り得る。子どもがティーネイジャーにもなると、親子の共通の話題を増やすことは案外難しい。親子で映画、オススメです!