—038—これまでも、これからも 前に進もう

白井純子 

愛知県出身。大学では国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得し、現在保育士としてパートタイムで働いている

 私の祖父母は戦争を経験した世代だ。子供の頃に祖父から戦地でおった傷を見せてもらったことがある。父方の祖父の背中には大きな刀傷があり、母方の祖父には背中から腹に貫通した銃弾の痕が残っていた。グロテスクな話だが、ラバウルという南の島に送られた母方の祖父は、傷口に蛆がわき、死を覚悟したと語ってくれた。また、父方の祖母から、幼子を抱きかかえ戦闘機から発射される銃弾を避けて逃げ回ったという話を聞いた時は、目の前の景色がまるでセピア色に変化し、若き日の祖母が叔母を抱いて防空壕に走り込む様子を想像した。

 私の両親は戦後生まれなので、戦争の記憶はない。それでも、戦後の大変な時期を懸命に生きてきた。戦争によって体や心に大きな傷をおった人々が沢山いる社会の中で、日本の復興に貢献してきた世代だ。そして私達の世代は、戦争はまるで昔話のような、いま一つ現実的でないもののように感じてしまっている。ありがたいことに、戦地に派遣されることも、飢餓に苦しむこともなく、平和に豊かに生きてこられた。そして、これからもずっとこんな時代が続くような錯覚を起こしている。

 しかし今、時代の大きな節目に立っているんだと痛感することが増えた。全世界的に不穏な空気に覆われている。今まで信じて疑わなかった民主主義の限界が見え、資本主義のデメリットが際立つ。環境破壊が進み、温暖化で自然災害も増えた。人類以外の多くの生物は絶滅に追いやられている。不寛容や排他主義、人は平和よりも戦いを選ぶのではないかと不安になることもある。戦争を知らない世代が大多数になると、戦争という悪魔の誘いに抗えなくなるものなのだろうか。私の大好きな祖国が、戦闘機を大量に購入し、護衛艦を空母化する時代になった。

 私がまだ子どもだった頃、日本最高齢の男性としてテレビで紹介されていた泉重千代さんは、「江戸時代を生きたことのある人」として幼い私に強烈なインパクトを与えた。生まれた時は、侍がちょんまげ姿で町を行き交っていたなんて、まるでタイムトラベラーのようだ。江戸から明治への急激な変化に、人々はどのような思いを抱いていたのだろう。慣れ親しんだ習慣を変えていかなければならなかった人達は、不安も大きかったに違いない。それでも日本はその後いくつもの戦争を経ながらも、経済大国になった。今、国の勢いに陰りが見え始め、新たな変化を予感させる。人類は私利私欲を制御して、戦争を回避し、より豊かな社会を手に入れることができるのか。はたまた、大きな苦難を招き、乗り越え、新たな時代を呼び込むのか。

 私は、私の子ども達の世代が幸せに人生を全うできることを、ただひたすら願う。山積する問題を私たち世代が解決し、明るい未来を残してあげられることを。そのためにも、滅入るような暗いニュースから目を背けず向き合って、前に進む道を探したいと思っている。