—043— 将来の夢

白井純子 

愛知県出身。大学では国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得し、現在保育士としてパートタイムで働いている。

 

 私の夫は少し変わった人だ。出会った頃は見た目も中身も完全な少年だったが、結婚20周年を迎えようとしている今でも、彼は相変わらず少年のようだ。頭の中がファンタジーで、彼の見ている未来はいつも明るい。ともするとネガティブな思考で奈落の底まで落ちていきそうになる私を、どこからともなくヒョイとすくい上げてくれることも多い。子どもが生まれてから、すっかり現実的な考え方になってしまった私とは対照的に、彼は今でも夢見る少年だ。いや、彼が夢見る少年のままだからこそ、私が現実的になってバランスを取っているのかもしれない。とにもかくにも、休日を過ごすために日本に戻ってくる夫は羨ましいほど自由で楽しそうだ。

 先日、夫婦で子ども達の将来について話しながら、自分たちは将来どうしたいかという話の流れになった。明かりを消したベッドルームで寝息を立てている次男の輪郭を見つめながら、子ども達が自立した後、どんな生活が待っているのだろうと考えた。私はほぼほぼ子ども達のことで頭がいっぱいという毎日を送っているので、自分の生活から子どもが巣立っていった後、空っぽになってしまいそうだ。「そんなに長生きしたくないなあ」と私がつぶやくと、「100歳くらいまでは生きたいな」と夫は言った。「本当に?!」と私は驚いて答えた。「僕は空が飛びたいんだ」と夫が言うので、私は吹き出してしまった。やっぱり夫は昔から変わらない。息子たちはいつか、空を飛ぶ100歳のおじいちゃんを見上げるのだろうか。そこで私も考えた。実は私もやってみたいことがある。彼の夢と比べたらありきたりだけれど、ピアノを弾いてみたい。楽譜を読むことが苦手で、チャレンジしたことが一度もなかった。おばあちゃんになった私は世界中を旅して、その街の駅や空港に置いてあるピアノで簡単な曲をゆっくり弾く。初めて訪れる街で、たまたまそこに居合わせた人々の背景の一部になってピアノを奏でることができたら、なんて素敵だろう。

 夫は仕事に関しても、人生に関しても、常に希望を見出して前進している。好きなことしかしないので、好きなことしかできない人。もし彼が、自分の才能に気づかぬまま会社勤めでもしていたなら、かなり辛い毎日だったろう。子どもの頃は全く勉強をしなかったと自慢げに話す夫は、息子たちにも好きなことだけ勉強しろと言う。結構危険な賭けである。ただ、幸せに生きるためのヒントは彼の言葉の中にあるような気もする。40歳を過ぎた今でもなお、やりたいことがいっぱいでワクワクしている夫。実際、将来の夢を語れる大人は、今時そう多くはないと思う。いくつになっても未来を楽しみにできる人生を息子たちにも送ってほしい。