インタビュー くらす香港

くらす香港 拾壹「好きなことが一生の仕事に – 主婦からテディベア作家へ」柴 季代子さん


インタビュー くらす香港

 


くらす香港 拾壹「好きなことが一生の仕事に – 主婦からテディベア作家へ」柴 季代子さん

           

暮らしてみて見える・感じる香港を各フィールドで活躍する女性に伺いました。

 (写真撮影:龍池千明)

<プロフィール>

テディベア作家。埼玉県出身。95年の来港後からパッチワークキルト教室に通いはじめ、テディベア製作を学ぶ。2012年、思いつきで作った、子どもの制服を使ったテディベアがクチコミで広がり、2014年に友人と2人で販売を開始。友人の離港を機に、2016年から個人事業を展開。現在、各地からの注文を受け付け、一つ一つ手作りで年間約100体のメモリアル・テディベアを作る。
Facebook https://m.facebook.com/HandMadeMemorialBears
ブログ http://s.ameblo.jp/misato-togasaki
Instagram http://instagram.com/hmmbearshk

3月某日、柴さんの自宅兼仕事場へ伺った。やわらかな日差しが入る、明るく開放的なリビングルーム。北欧風の大きなテーブルの上に製作中のテディベアや裁縫道具、ミシンが並べられている。どこか絵本の中の世界を彷彿とさせるこの場所で、毎年約100体のベア作りに精を出す柴さん。注文からベアを受け取るまで早くても半年待ちという状況にも関わらず、製作の依頼は絶えない。一介の主婦だった女性が、人気テディベア作家へと転身を遂げるまでの軌跡をたどった。

■テディベアとの出会い
私は生まれも育ちも生粋の埼玉県民です。会社員の父と、主婦である母のもとで育てられた私は、中学時代にはバスケットボールに打ち込む日々を過ごしました。今このような仕事をしていると人から驚かれるのですが、母から裁縫を習ったことも、芸術系の部活に所属していたこともなく、裁縫や手作りとは無縁でした。

大学卒業後は監査法人に勤務していました。税理士の資格取得を目指して働きながら、勉強を続けていました。同じ大学にいた夫とは、働き始めて2年目に結婚したのですが、子供のいる家庭を作ることも、「資格を取得してから」と、全てを後回しにしていました。結局5年も勉強したものの、資格取得もならぬまま30歳で香港に来ることになりました。今なら分かりますが、この仕事が好きで始めたわけではなく、いきがかり上、試験に受かるまで続けていただけだったのです。

1995年、結婚して4年目に夫の転勤に伴い香港に来ました。これを機に仕事と勉強に見切りをつけました。来港後ほどなくして、たまたま教えてもらったパッチワークキルトの教室に入り、初めて手作りの世界へと足を踏み入れました。
教室では、タペストリーやベッドカバーなど様々なものを作りましたが、課題の一つにテディベアの製作がありました。各人が別々のパーツを作り、つなぎ合わせ一つのベアにして、帰国する仲間に贈ったりしていました。ベア作りに夢中になったのはその頃からです。先生から刺繍も教わり、ベアにワンポイントの刺繍を入れました。4年ほど経った時、先生のご帰国により教室が閉じることになりました。その後はメンバーの家を持ち回りで集まっていましたが、次々とメンバーが帰国し、いつの間にかサークルはなくなりました。

■好きなことがカタチに
3人の子どもを授かった私は子育てに追われ、裁縫からしばらく遠ざかっていました。再び裁縫道具を手に取ったのは、2012年のことです。娘が仲良くしていた友達が帰国するというので、ふとベアを作ってみようと思ったのがきっかけでした。同じ学校に通った思い出になると思い、学校の制服で作ったベアを娘の友達に差し上げると、とても喜んでもらえました。その後、私の子供の制服で作ったベアもFacebook(以下FB)に投稿したところ、知人から「作ってほしい」と連絡をもらうようになり、当時は趣味で作って差し上げていました。

しばらくすると、友人が「これを販売してみたらどうか」と提案してくれ、2014年にHand Made Memorial Bearsの事業を立ち上げました。マーケティング業務を友人が、私は製作をするというように分業にしました。当初は月に1、2体の注文でしたが、事業がゆっくりと動き始めていた頃、パートナーだった友人が離港することになりました。一人だけでできるかとても不安でしたが、まだ注文もあったため、続けてみることにしたのです。2016年に改めてFBのアカウントを立ち上げ、個人事業として正式に開始しました。インスタグラム、アメブロなども開設し、そこからの注文も入ってくるようになりました。

私は30歳で香港に来るまで、夢中になるほど何かを好きになったことがありませんでした。漠然と生きてきたように思います。こんな私が、来港してはじめてパッチワークキルトに出会い、夢中になれるものを見つけたのです。無心になって作り続け、気がつくと何時間も経っています。1日に6時間ほどの製作時間を持つことができる日もあります。子育ての後に、こんなに楽しいことが待っているとは想像もしませんでした。自分の好きなことに出会えることが、こんなにも人生の幅を広げ、生き方を豊かにしてくれるのかと実感しています。

 一つ一つ思いを込めて丁寧に作る。取材時に作っていたのは、オーストラリア在住者からの注文
 (写真撮影:龍池千明)

■唯一無二のテディベアに込めた思い
メモリアル・テディベアの特徴ですが、糸・綿・目のパーツ以外の材料は、全てお客様のものでできています。生地は8割が制服です。卒園、卒業のため制服を思い出に残したいというご要望が最も多く、その他にはベビー服、授乳ケープもあれば、学生時代に使っていた部活のユニフォームや、ご主人との交際時代に初めて買ってもらった服など、子供だけでなく大人の衣類の場合もあります。また愛車に飾るため、車の座席シートと同じ生地で作ってほしい等、ご依頼は多岐に渡りますが、どれもお客様の思い出がたくさん詰まったものです。これまでに520体ほどの、様々な思い出を持つテディベア製作に携わって参りました。

開始した当初は知人からの依頼が多かったのですが、2年後には新規のお客様が増えてきました。今はほとんどが新規の方です。こんな見知らぬ一介の主婦に、思い出が詰まった大切な服を預けてくださいます。そう考えると、お客様にご満足いただけるような最高のベアを作りたいという思いでいっぱいです。
ベアが届くまで「ワクワクします」というお気持ちや、完成品を見て「想像以上の出来に感激しました」 というご感想などをお客様が知らせてくださいます。また、納品後の写真を多くの方が送ってくださるので、こうしたお客様からの反応を励みに、日々、ベア作りに向き合っています。
ベアの服の装飾にも、できる限りお客様からお預かりしたものを用います。例えば、ボタン、ロゴ、服に付属している金具など、様々なものを取り外して使います。ボタンが大き過ぎてサイズが合わない時は、元のボタンと似た小さめの物を入手して、元の色と同じ色に自分で染め直すこともあります。まだ試したことがない難しいご注文も時々入ります。制服の帽子をベアのサイズにしてほしいというご依頼がありましたが、帽子などは形づくりがとても難しいのです。でもそうしたご要望にもできるだけお応えしようと、まずは布地の問屋で同じ素材の物を購入して試しに作ってみます。試行してできると分かってから、実際にお客様の生地で作っていきます。お客様に喜んでいただきたいという思いで試行錯誤して臨むと、いつもそれが自然と形になってできあがります。
こうしたことは手間と時間がかかりますが、成長のための自己投資です。ベアを作っていると、「またできた!」ということが積み重なり、少しずつ上達している自分が感じられるのです。お客様からベアを作る機会をいただきながら、製作技術の勉強ができることを、この上なく幸せに感じています。

香港に来てから好きなことに出会い、それが仕事となり、また世界各地に住む人との輪が広がりました。
近い将来、26年になる香港生活を終え日本に帰国する予定ですが、駐在が続く家族が香港に残ります。それに伴い、今後は私が日本と香港を行き来しながら、もっと利用しやすいサービスを考えていきたいです。

 同じ学校の制服の依頼でも、依頼主の要望により異なったベアに仕上がる。世界に一つしかないベアが人気となり、8体目の注文をするリピーターも。7割の客は日本人だが、香港人や欧米人などからもクチコミで依頼がくる。
(写真撮影:龍池千明)

 

依頼主の子ども(男の子)が制服を着用していた頃の写真。体にはシャツが、足にはズボンが用いられるなど、ベアの各部位は身に付けていた制服の生地で作られている。
(写真:依頼主提供)

パッチワークキルト教室時代の作品の数々。
(写真:本人提供) 

使い続けてボロボロになったものも。
(写真:本人提供)

 刺繍も習得したことで、今ベアにつけるネームの刺繍入れに役に立っている。
(写真:本人提供)

 (写真:本人提供) 

 

子供の使い古した服でリメイク。
バスケのユニフォームでクッションカバー。
(写真:本人提供)

 子供のTシャツで枕カバー。(写真:本人提供)

 <10の質問>
① 日常の生活スタイルを教えてください。

朝7時に家族全員そろって朝ごはんを食べます。夫や子供達が出勤・登校したら、家事の合間をぬって午後5時ごろまでベアを作ります。家族がいる時は一緒に昼ごはんを食べたり、テレビを見たりします。「笑う門には福来たる」の言葉が好きで、お笑い番組を見て思い切り笑うと、気分がリフレッシュできます。

② 休みの日に何をしますか。
朝8時ごろから夫と、ケネディタウンからセントラルまでの海沿いを1時間ほどウォーキングします。その後、朝食をとってから、また歩いてうちに帰ります。

③ 「普段よく行く場所」と「とっておきの場所」はどこですか。
普段の買い物は、銅鑼湾のシティスーパーや太古城のアピタへよく行きます。手芸品の道具などの購入には深水埗へ行きます。とっておきの場所は、サイバーポート周辺の沿岸にある歩道です。海の向こうのラマ島を望む開放的な場所です。

④ 朝食は何を食べますか。
焼き鮭、納豆、ベーコン、ご飯、お味噌汁が定番です。お味噌汁の具には、わかめ、あおさ、とろろ昆布、なめこなどを入れます。

⑤ 香港のどんなところが好きですか。

狭い土地ですが、海も山もあり、日本や欧米の店もあれば、ローカルの店ある。買い物できる場所も、リクリエーションの場所も全てが身近にあって、いつでも楽しめるのが香港のいいところです。

⑥ 香港で一番驚いたこと、カルチャーショックだったことは何ですか。
エアコンから排出される水が外に垂れ流しだったこと。香港に来た当初は、雨かと間違うほど、歩道に水が降ってきたのには驚きました。今はそういった場所は少なくなりました。

⑦ 「香港で食べた一番美味しかった料理」と「苦手な料理」を教えてください。
おいしかった料理は「鮑のステーキ」です。『阿一鮑魚』だったと思いますが、肉厚な鮑にソースを絡めて食べるのが、とても美味でした。メガネのおじさんの顔がプリントされている缶詰もあって、鮑が4つくらい入っていたのですが、これもおいしかったです。
苦手な料理は、恐ろしくて手が出せず食べたことはないのですが、「臭豆腐」です。香港に来た当初、よく街頭ではあの匂いが充満していました。

⑧ 仕事以外で、これからチャレンジしたいことはありますか。
長男がハマっているので香港式の麻雀を始めましたが、ルールをもっとよく覚えたいです。また中国茶も習いたいです。

⑨ 香港で得た一番の財産は何ですか。
運転免許を取得したことです。香港に来て、初めて車の運転をしました。空港の往路を運転するのが好きです。運転や裁縫など、香港に来てからいろいろな道が開かれました。

⑩ 香港に住みたい、香港で働いてみたい人へのアドバイス
日本にいると周囲の考えに敏感になり、周りの目が気になります。でも香港では英語や広東語ですから、所詮、外国人である私には完全には分かりきれません。だから鈍感でいられるのがいいんです。人目を気にせず、思い切りいろんなことができます。また、香港には多様な考えを持つ人がいるので、他の人と違うことをしても「人それぞれだ」と捉えてもらえます。日本では無理なことも、香港ではチャレンジする勇気が与えられます。

<あとがき>
「好きこそ物の上手なれ」という言葉があります。好きなことにとことん打ち込めば、それまでの生き方に関わらず、「人生を変えることができる」と、柴さんの取材からとても勇気づけられました。
取材・写真撮影:龍池千明 March 5, 2021

Mar 25, 2021

       

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