絵本から得られるもの
絵本を読むこと、読み聞かせること、こんなことをじっくり考えるなんて、ひまな人だろうと思われるかもしれませんが、世の中のお父さん、お母さん、または子どもに関わる人たちにどうしても伝えたくて、分かりきったことかもしれませんが、時間を割いて読んでいただけたら、とても嬉しく思います。
プロフィール :
横井ルリ子さん 教育者教員経験を活かし、個人教授という立場で長年教育に携わる。現代の教育に疑問をもち「母のクラス」「こころのクラス」など独自の教育法を実践。最近は、読み聞かせ、読書、作文など国語教育にも力を入れている。在港16年。
『くいしんぼうのあおむしくん』
『くいしんぼうのあおむしくん』
福音館書店・こどものとも傑作集・槇ひろし作・前川欣三絵
何でも食べてしまう小さな小さな青虫が、ぼくの家族、ぼくの家、ぼくの学校をどんどん飲み込んでしまう。ある日、目を覚ますと、親友のぼくだけが青虫に食べられず、何もない原っぱの真ん中に横たわっていた。ぼくは、すべてを失い孤独であった。最後にぼくは・・・・・・思い切って自分も青虫の口の中に跳び込んだ。恐る恐る目を開くと、青虫のおなかの中には、元通りのぼくの街が広がっていた。
ご近所のおじいちゃんおばあちゃんから野菜をどっさりいただいた。なんでも、田舎から出てきた親戚が、鳥やら青菜やらを山ほど抱えてやってきたらしい。「爺さん婆さん二人ではとても食べきれない。新鮮だよ!農薬使ってないよ!」声を高くして、おじいさんは得意気だった。「そうだろう、そうだろう」一目瞭然、葉っぱという葉っぱは虫に食われている。最近でこそあまり野菜についた虫を見かけなくなったが、子どもの頃、うちのおじいちゃんが作る野菜にはすべて虫のおまけがついていたなあ・・・・・・。
早速いただいた青菜を水洗いしていると体調2ミリぐらいの青虫がわんさかと出てきた。「わあ、ここにもいる!あそこにも!」なみなみの水に仰山浮いているではないか。あまりの多さに驚愕しながら、咄嗟に私は溺れる青虫の救出にとりかかった。もともと虫は嫌いではないし、すでに気持ち悪いという感覚はなかった。私は一匹一匹丁寧に手のひらですくい上げ、水害に遭った彼らを安全な場所へ避難させた。青虫たちは瀕死の状態だった。しかし、そのうちの何匹かは息を吹き返し、活動を開始した。「あっあっ、逃げる!」私の叫びに長女が跳んできた。「ママ、何してるの?」渡りに船だ。「ちょっと、青虫が逃げちゃうから、ここでこの入れ物もっていて!」最初は「えーっ」と不満げな返事をした長女は、あっさりと青虫救助隊に加わった。
異様な騒ぎに次女もキッチンへ顔を出す。「わー、ママ,何やってるの?!気持ち悪い!!」次女は私と長女が青虫たちと格闘しているシーンを距離を置いて見ていた。私は野菜の芯のほうにひっついている1ミリほどの小さな青虫を発見した。私の指は太すぎて隙間に入らないので、葉っぱを広げて左右に振ってみた。それと同時に私の背後で次女の叫びが響く。先ほどの青虫は弧を描き、次女の口へ命中のだった。泣きながら洗面所へ走った次女が戻ってきた。私は「ごめん、ごめん」と言いながらも笑いが止まらなかった。そして、返す言葉も見つからず「良質のたんぱく質」と一言つぶやいた。かき集めた青虫。総勢6匹。1ミリから4ミリ、大きさはさまざまだが、ひとつの容器に入れ、うちで飼うことにした。青虫はよく食べる。どの虫も一様に食欲旺盛で、翌日には1センチほどに成長した。私はこのスピードの速さにたまげてしまった。まるでVTRの早送りだった。
2日目からはもともと青虫がついていた青菜がなくなってしまったため、私たちは青虫にえさを与える必要に迫られた。娘たちは、「青虫は何が好きなのかなあ・・・」と悩んでいる。とりあえず家にある野菜を試してみることにした。「今日のご飯はサツマイモの皮だよ。」あまり喜んではいなかったが、他に食べるものがないので、青虫は食べた。そして、さらに大きくなった。青虫の体は鮮やかな緑色から、どんよりとしたくすんだ色になった。なんだか汚い。急に可愛くなくなってしまった。だから私たちはまた青菜を与えることにした。
ある日、私は忙しさにかまけ、青虫のことをすっかり忘れてしまった。「しまった!」その晩、こわごわケースのふたを開けると、食糧難に陥った青虫は弱肉強食を行使していた。生き残ったのはただ一匹。4センチ大に成長した勝ち組さんだ。巨大化した青虫を見て、私たちはとても不安になった。「いったいいつまで育てるのだろう?」その思いが青虫に通じたのか、飼い始めてから6日目の午後、私が帰宅すると青虫ケースはもぬけの殻だった。どうやら空気穴をつたい外界へ脱出したらしい。
家中を探したが見つからない。しかしあの体である。遠くへは逃げられまい。
更に一週間が経過した。明け方、眠い目をこすりながら、リビングの電気を灯すとなにやら白いものがひらひらと目の前を舞っている。一瞬、錯覚?と目を疑ったが、「虫!虫!」と叫ぶ娘の声に我に返る。窓を全開にし、電気を消したが、白いものは外へ出てゆく気配もない。
「もしかして・・・・・・・」
この蛾はあのときの青虫くんかもしれない。生まれたてで真っ白だ。あれほど虫を怖がっていた次女だが、うちの青虫だとわかるとまったく恐れなくなっていた。
この日、私たちは蛾が舞い続ける中で朝食をとった。みんな、午後にはあの青虫くんが再び旅に出てしまうことをと知っていたから。
2011年10月4日
ある日の日記より