カウンセリングルームから見える風景

居心地悪いことに、真実がある


カウンセリングルームから見える風景

Suomi Fujimori

臨床発達心理士。2012年より香港に移住。個人・カップル・ファミリーを対象としたカウンセリングを、日本語・英語で提供しています。

 


居心地悪いことに、真実がある

こんにちは。香港でカウンセラーをしている藤森です。
これを書いている今は、旧正月の真っただ中。日本人の感覚では、1月1日がお正月ですが、香港に住んでいると旧正月の方が断然にぎやかで、自然に、年に2回元日を迎えるような不思議な感覚にとらわれます。香港にお住いの皆さんは、毎年、どんな風に感じていらっしゃいますか。

私の場合ですが、12月31日に過ぎゆく年を振り返り、1月1日に新しい年をお祝いする。そして、その後旧正月までの1か月を、地下に潜って休眠するように、自分がどこに向かっていくのが振り返るような感じで過ごすのがひとつのパターンになってきています。もちろん、休眠期間と言えど、毎日の生活や仕事はあります。それでも、精神的な部分で、まだ見えない新しい年の行く末を、見据えている時期であるような感じがします。

2017年の休眠期間は、ちょうど、3年間続けていたトレーニングの修了に重なりました。カウンセラーは、カウンセリング技法向上と新しい技術の習得するために、常に学び続けます。私はアメリカのSomatic Experiencing Training Instituteという団体が主催するトラウマを解消するためのトレーニングを、香港で学んでいました。このトレーニングは、身体感覚を通して、トラウマがもたらす不快な症状の解消を試みるための理論と実践を、3年間のカリキュラムの中で、繰り返し学んで、深めていくものです。(詳しく知りたい方は、日本語のサイト、英語のサイトをご参照ください。)

このトレーニングの中で得た学びの一つは、「自分にとって居心地の悪い感情や感覚と少し共にいてみる」ということの大切さです。私たちは、自分にとって都合の悪いこと、感情、感覚から身を守る方法を身に着けています。この防衛反応が、過剰に使われることで、本来感じるべき感情が切り離されてしまい、それが繰り返される中で、ストレス、身体症状、対人関係での支障が引き起こされることが多くあります。

たとえば、「そろそろダイエットのために運動でもした方がいいかしら?」と思っているとしましょう。体重が増え気味である事実も、運動が身体にいいという情報も、運動をする習慣のない人にとっては、あまり心地の良いものではありません。いきおい、「今は寒いから」、「時間がない」と言い訳が頭に浮かぶのは、都合の悪いことから目をそらす例のひとつです。この「言い訳をしてダイエットをしない」という行動は、つかの間の心の平和をもたらしてくれるかもしれませんが、長い目で見てみると、体重のさらなる増加だけでなく、自分自身をケアする・大切にするというチャンスを手放していきます。その結果、体重増加に限らず、精神的なストレスからくる心身の不調、自分のニーズに適切に応えることのできない行動パターン、自分の気持ちを認めることができないことによる精神的な落ち着きのなさなど、様々な心身の問題につながっていきます。

ダイエットや運動や運動以外にも、「寂しさを感じたくないから、予定をいっぱいにしておく」、「緊張をほぐしたくて、お酒を飲む」というのも、嫌な感情や感覚から逃れるための方法でしょう。どちらも一時的な心の平安をもたらしてくれますが、行き過ぎると本人には気づきにくい形で、心身の不調につながっていくこともあります。

また、この過剰な防衛反応は、心身の不調だけでなく、関係性の不調を引き起こしていくこともあります。たとえば、夫婦げんかで、あるトピックになると、冷静に話せないという状況があるとします。耐えられない感覚が身体の中に沸き起こって、それらを感じたくないために、防衛反応として、声を荒げる、会話を中断するなどの、特定のパターンができているとみることもできます。もちろん、友人関係や親子関係にも、このパターンが当てはまることもあります。

これらの心身の不調、関係性の不調には、どのように対処したらいいのでしょうか。ひとつの方法は、自分が何を避けているのか、何に反応しているのかを知ることです。ただし、知的に分析するだけでは、限界があります。なぜならば、思考はいくらでも都合のいい言い訳を作り出してくれるからです。

「ダイエットや運動ができないのは、家族が協力してくれなくて、私が忙しすぎるから」
「友達がいっぱいいて、それが私の幸せ。予定はいっぱいなのがいいに決まっている」
「お酒はストレス解消に欠かせない。○○さんに比べたら、飲む量は少ないから大丈夫」
「私を怒らせる、あの人が悪い」

納得のいく理由もあり、なおかつ、なんの問題もないなら、その理屈は正しいのでしょう。でも、もしも不調があるのだとしたら、その瞬間に感じている身体の感覚に焦点を当てていくことが、不都合な真実に目を向ける、問題を解決していく機会にすることもできます。なぜならば、身体感覚の快不快は、思考の作り出す理屈よりも、ずっと自分に正直だからです。

自分の在り方を、思考だけでなく、心と身体の側面からもバランスよく見ていく。それは、私自身がトレーニングを受ける中で、繰り返し問われ続けた課題でした。そして、この3年で、自分自身がより豊かに生きられるようになったことは、思わぬ大きな収穫でした。

毎年巡ってくる、1年の節目。皆さんはどんなことを振り返っていらっしゃるでしょうか。今まで歩んできた道のりを振り返ることが、これから歩む道のりを明るく照らす機会になるといいですね。

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