ちゅったんの香港おばば

産後などなど


ちゅったんの香港おばば

マミーと私、ときどき愉快な親戚たち

C家に嫁いで18年。オットは男ばかりの5人兄弟の末っ子。実の娘のように可愛がってくれるマミーとの関係は良好。あまり親しくない人からは「香港おばばと同居大変でしょ」と同情されるけど、この異文化交流を楽しんでます。マミーのほうがよっほど気を遣っているようです。マミーは、(ときに度を越した)世話好きで、変なところに潔癖で、義理人情に厚く、せっかちで、記憶力がよく、歴史好きで、料理嫌いで、かなり頑固で、行動力のある人だ。男に生まれた方が幸せだったかもしれない。面倒見がいいので、80歳を超えても息子たちの家族のために世話を焼いている。そのせいで、うちの家族は兄たち家族のトラブルにいつも巻き込まれている。香港では家族の付き合いが濃いので、それもしょうがない。そんな日常のエピソードを、気まぐれに連載しています。

 


産後などなど

産後の慣習、タブーや決まりごと、外国人にとってはなかなか手強いです。

シャワーはokだけど、髪を1ヶ月洗ってはいけない。
これは10日ぐらいで耐えられず洗いました、でも10日は我慢しました。

手を水に浸けてはいけない。
えっ?ですよね。
赤ちゃんのお世話をするのに、お風呂に入れたり、オムツのケアの前後だって手を洗うし、これを守るのは無理です。
昔は炊事、洗濯など産婦にとってはきつい仕事をせめて産後ぐらいは免除してあげようという慣わしなんでしょう。

日本と決定的に違うのは、妊婦は実家に帰らないこと。
お姑さんが責任をもって(干渉されたくないお嫁さんも増えてるだろうけど)、産前産後のケアをしなくてはならないということ。
お姑さんが自分でやれない場合、産後ケア専門ヘルパー(普通のヘルパーの4、5倍の賃金でしかも良い人材の奪い合い)を探すとか、とにかく嫁ぎ先が采配を振るわなくてはいけない。
産後で全く違うのは、日本では赤ちゃん中心でママの産後ケアが見落とされてるけど、香港ではママの体のケアがそれはそれは大事にされます。

*坐月(ちょうゆっ)と言って産後1ヶ月は、あまり外へは出ず安静に過ごします。
といっても赤ちゃんのお世話で寝不足ですが。
赤ちゃんの予防接種には、お姑さんかお母さんかヘルパーさんが付き添いで赤ちゃんを抱っこしているの見たことないですか?
産婦は箸より重い物を持っちゃいけないのです。
子宮が下がるそうです。
うちはマミーが足が悪いので自分で抱っこして行きましたが、ほとんどが付き添いが抱っこしています。

食べ物もこだわってます。
産んだ直後はしょうがチャーハンが定番。
みんな病院の食事はとらず差し入れのしょうがチャーハンを食べています。
次に退院したら、3日間黒ビールを飲みます、しかも常温で!
お酒好きの私でも黒ビールを常温って、さすがに薬に近い感覚です。
これは子宮の中の余計な物をきれいにする効果があるそうです。
更に木耳(キクラゲ)や金針という乾物の山菜料理を食べ不要な物を徹底的に出します。
産後の1ヶ月、生野菜・果物ゼロ、繊維はすべて乾物(キクラゲ、クコ、ナツメ)で摂取。

産後12日後、余計なものが排出されたら、ここからが本番。
いろんな見たことも食べたこともない物がどんどん出てきます。
産後は極度の虚弱状態で体がスカスカのコンディション。
このスカスカを滋養のある薬膳で埋めれば、体質改善できる絶好のチャンスなんだって。

①食事はその日に〆た活鶏。
4年前は幸い活きた鶏が市場で買えたけど、鳥インフルで問題になってからは活鶏全面廃止。
マミー曰く、「そんなパックになってる鶏なんてどんな素性かわかんないでしょ。鶏は活きてなきゃダメ」と毎日市場へ行っていた。
毎日蒸し鶏。でもとにかくお腹が減って毎日でも黙って食事が出てくるありがたさを感じて不思議と飽きなかった。

②最強の産後料理、生姜×豚足×酢×ゆで卵
産後はこれなしには語れません。
香港人で産後にこれを食べない人は香港人ではありません。
臨月になると、キロ単位で生姜を買い込みと専用のお酢は梅酒をつけるような保存瓶のサイズを1ダースぐらいデリバリーしてもらい、いよいよ決戦ムード。
私も生姜を洗い、皮を包丁の背でガリガリ、延々と続きます。
豚足も生姜も毎日少しずつ足して酢で煮込んでいきます。
マミーは豚足のギトギトが嫌いなので、一度湯でこぼし豚足と生姜を別に煮ます。
味は日本人にはかなり抵抗ある感じですが、薬と思って毎日食べて煮込んだ酢も飲みました。
その匂いは強烈ですが、香港人はこの匂いとおめでたがセットで刷り込まれているので、ご近所からこの酢の匂いがすると、「赤ちゃん生まれたんだ~」と思わず笑顔になります。
12日後、親戚にこの生姜酢を配ります。これもお姑さんのお仕事。
酢はカルシウムを、豚足はコラーゲンを補強して、腰痛にならないそうです。
よく分からないけど、生姜×豚足×酢×卵で何だかすごい化学変化が起こって産婦にとっては万能薬みたいに効くらしい。

③鹿の角(10日後には鹿のしっぽ)×冬蟲夏草×高麗人参のスープ
この3つとも高級生薬。
これに赤身の豚肉を入れ、燉(だん)ダブルスチームスープと言って、生薬の栄養素を壊さないように湯煎の状態で煎じる手間のかかったスープです。
うちにはダブルスチーム専用のクッカーがあるので、材料と水を入れてスイッチを入れれば数時間後には出来上がり。
このスープ1回のコスト、1000ドルぐらい!×1ヶ月ぐらい毎日飲みました。
虫の形の冬蟲夏草ももったいないのでスープと一緒にボリボリ食べました、見た目は「・・・」ですが意外にナッツのような香ばしい味ですよ。
節約家のマミーにこんなにお金を使わせて悪いな~と言うと
「お母さんが飲んで体に良くて母乳から赤ちゃんにこの栄養が行って、一生を左右する基礎を強化するんだから全然高くない!」
目先の事にとらわれてちゃダメなんですね。

④飲み物は棗(ナツメ)茶
水ではなく、飲み物はいつも棗を煎じた棗茶。
1ヶ月もよく耐えられたな~と不思議。

⑤豚の横隔膜?だったか予約しないと買えない部位を酒で煮たもの
まずくはない。
でも産後以外では食べない料理。

そして晴れて*坐月の1ヶ月が終わると、*満月(むんゆっ)という赤ちゃんのお披露目パーティーです。
食事の前はお決まりのマージャン、テーブルには必ず赤いゆで卵が準備されます。
これでマミーと私の長いような短いような怒涛の1ヶ月が終わりました。
この後マミーは戦いが終わったボクサーのようにボロボロになって、床に伏せってしまいました。

*坐月(ちょうゆっ)・・・産後1ヶ月間
*満月(むんゆっ)・・・産後1ヶ月目

Related Posts

發佈留言