摂食障害

あれから一年


摂食障害

プロフィール

みぃまま

13歳の娘が2019年8月23日から9月27日まで香港の公立病院に摂食障害で入院しました。「摂食障害」の診断を受け、何をどうしていいかわからずネットでいろいろ検索してみましたが、香港での摂食障害の情報は無に等しいほどありませんでした。精神病だから知られると恥ずかしく、内緒にする人が多いそうです。摂食障害は難病で一番死亡率が高い精神病だそうですが、早期発見できちんと治療を受けると治る確率も高いものです。娘の体験が今後同じ症状で悩んでいる在住者の参考になればという思いから、こちらで発信させていただくことになりました。

 


あれから一年

新しい土地への出発に向けて準備したひとつが香港のドクターからの診断書である。
小児科医と臨床心理士の両方に書いてもらった。一通につき800ドル、申し込み後約6~8週間で自宅に郵送される。これを新しい土地のカウンセラーに必要に応じて提出する。

新しい学校にはウェルネスセンターがあり、4人のスクールカウンセラーが常時いる。生徒の心と体のウェルネスに向き合い、真剣に取り組んでいる。臨床心理士でもあるスクールカウンセラーと寮長には事前にミーティングをして娘の摂食障害について説明した。
「今までにも同じようなケースの生徒は何人もいて、私たちは経験もあるから安心してください。」と言われてホッとした。海外の寮のある学校に転校したいと言った娘の希望を叶えたが、果たしてこれでよかったのかという思いがずっとあったからだ。カウンセラーとは娘が定期的に会えるようにアレンジした。

転校して約1か月後会いに行くと、娘はぶかぶかの制服に身を包み、さらに痩せていた。
学校は楽しいが、寮の食事は食べられるものがないという。食事はビュッフェ式で、ベジタリアンメニューやサラダバー、スープバーもあるが、寮の食事は油を使っていて、ソースがかかっているから食べられない。
寮の冷蔵庫には自分で好きなものを買ってきて、好きな時に食べることもできるが、スーパーには週末しか行けず、唯一食べられる低脂肪のグリークヨーグルトは売っていないそう。
彼女の頭の中に、食事時になるとモンスターがまた出てきている。

そんな時、世界中を新型コロナというパンデミックが襲い、約2カ月間学校も寮も閉鎖した。その間は私と一緒に滞在したが、学校が再開した後、寮での生活は管理されている「刑務所」のようだと嫌い、夜中も号泣し興奮した状態が続いたので、学校から迎えに来てほしいという連絡が入った。
根本的な原因は摂食障害が治っていないところにあるから、香港で入院していた病院の精神科病棟に入院して治すのがいいのか考えたが、学校は楽しそうに通っている。週末は友達の家に遊びに行ったりもしている。臨床心理士のスクールカウンセラーと話し合い、ゆっくりと時間をかけて寮生活に慣れるよう前向きに考える方向で進めることにした。しばらくは私と一緒に滞在先から登校して様子を見ることになった。
ところが「学校は楽しいから続けたいけど、寮には住みたくない、どうしたらいいかわからないから死にたい」と発狂。「死」という言葉を初めて口にしたのを聞き、動揺した。
夜シャワーの後に水着に着替え「川でおぼれる」と言ったり、
「山に行って行方不明になる」と言ったりするだけでなく、
スイスアーミーナイフを手首に当てるようになり、部屋にある刃物はすべて隠した。
娘の脳はモンスターに支配されていた。

文部科学省の「自殺のサインと対応」によると
自殺の心理
強い怒り:自分の置かれているつらい状況をうまく受け入れることができず、やり場の ない気持ちを他者への怒りとして表す場合も少なくありません。何らかのきっかけで、 その怒りが自分自身に向けられたとき、自殺の危険は高まります。
自殺の危険因子
心の病  うつ病、統合失調症、パーソナリティ障害、薬物乱用、摂食障害などが自殺の危険の背後 に潜んでいることがあります。高校生の年代になると、大人と同じように心の病が自殺の危険と密接に関連するようになります。この年代は統合失調症などの心の病の好発年齢にもなるので、早期に発見して、適切な治療に結びつけることが重要です。摂食障害も思春期に多く発症します。摂食行動をコントロールできないために抑うつ症状が重なってくると、自殺の危険は高まる場合があります。」
参考資料

先が見えず心が折れかけていた時、心配してくれた友人が彼女の息子が鬱病で自殺を考えていたときの経験を話してくれた。心理カウンセラーは1日3回家に来て話を聞いてくれる。でも一度「精神病」の診断を受けてしまうと、就職の際、職種によっては不利になるそう。息子さんは消防士か警察官になろうとしたが、メディカルレコードに書かれているため落とされた。特に彼は自殺に使うツールを車だと考えていたという記録がよくなかったようだ。心理カウンセラーによると、自殺を考えている人は、車、刃物、入水、飛び降りなどひとつ明確な手段を持っているそうだ。私は娘が学校から家に帰ってきてくれるか不安を感じているように、彼女は息子が車で外出すると戻ってくるまで心配していた。

試しに寮に一泊することが決まっていた日、娘は行方不明になった。見つかったとき、彼女は筆箱に入っていたハサミを手に持っていた。それで何をしようとしていたのか聞くと、「どれくらい深く刺さるかなと思って」と平然たる顔で言った。私がそばにいて、一緒にモンスター退治をしようと決意した。

ちょうど去年の今頃、摂食障害と診断され、入院した。
簡単に治ると軽く考えていたが、何層もある奥の深い病気で、
治すには長い時間と、まわりの理解と協力が必要だというのが今はわかる。

香港に戻ってきた現在の娘は油とソースは一切使わず、小さく切って、1時間以上かけて食べる。
口に入れるものはすべてカロリーを調べ、買い物は成分を熟読してから購入する。
飲み物は水だけ、お菓子やアイスクリームやピザなどは食べない。
外食の際はレストランのメニューをオンラインで研究してからでしか行けない。
自分の思い通りの食事ができないと、モンスターが現れることもある。
モンスターが出てきて情緒不安定になって刃物に手を出さないよう、娘が家にいるときは必ず私か夫がいるように生活スタイルを調整した。
でも、毎日3食食べてくれて、生きてくれているだけで大前進。

完治への道のりはまだまだ長い。もしかしたら全快ことはないかもしれない。
でも親として唯一できるのは、治ると信じてサポートすること。
振り回されて不安なことも苛つくこともあるけれど、一番つらいのは本人。
たまに現れては困らせる娘の中に共存するモンスターと一緒に向き合い、
ゆっくりと時間をかけて、いつか
「そういえば頭の中にモンスターがいたこともあったよね」
と冗談のように笑って話せる日がくることを信じている。
「食べること」は「生きること」。

病院関係者や学校関係者をはじめ、娘と私を励まし支えてくれている家族や友人に感謝します。モンスターは手強くて、一人では絶対に戦えません。まわりに助けを求めていいんですよ。

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