香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

前世

前世

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


前世

長男がなんども同じ夢を見るという。6歳くらいから始まり約8年間、繰り返し見ているうちに、その風景やそこにいた人達の顔さえもはっきりと記憶しているらしい。

ヨーロッパ風の家屋が所々に立っている田舎の村。大通りと脇に入る小さな通りの角に十字架が掛かった教会がある。彼は黒いリムジンの後部座席に乗って教会に向かっていた。その日は雨で、ジメッとした湿度の高い車内で彼は、軽い頭痛を覚えたらしい。面倒くさい気持ちと、行かねばならない気持ちが交錯する中、車が教会の前に着く。車のドアを外側から開けてくれる者がおり、彼は車を降りて教会に向かって歩く。教会が建つのは芝生の丘の上で、正門に続くレンガの階段があり、左右二人づつ階段の端で傘をさしかけてくれる者がいた。そのうちの一人には頬にシミがあったという。階段を上がる30~40歳代の彼の体は重く、体調が良くないようだった。教会に入ると、秘書のような老人が「あの方がお待ちですよ」と声をかけてくれる。教会を入ってすぐ左手にあるカレンダーには『195X年』とあった。英語ではない外国語を話し、カレンダーもアルファベットであるものの、英語ではない言語が書かれていたという。教会の右手奥には裏口があり、そこを開けると花畑が広がっていた。そして、金髪のショートヘアの女性が彼を待っている。彼女を抱きしめると同時に彼女の体はスーと消えてしまい、その直後自分も後ろにスーと倒れていく。そして、ガン!という衝撃が身体中に走る。

衝撃と共に目覚めるのだが、ベッドから落ちたのかと思うほど身体中に感じたその衝撃で、首に痛みが残ることもあるらしい。

私は前世も来世も信じていなかった。人は死んだら無になると思っていた。人間はただの有機物に過ぎないという考えの持ち主だった。しかし、長男のこの夢の話を聞いて胸が高鳴った。この世界にはもしかすると、本当に科学では証明できないものが存在するのではないかと妙に興奮した。長男の話には説得力があり、性格的にもそんな嘘をつくタイプではない。私が「もし夢に出てきた人達に出会ったら、すぐにその人だと認識できる?」と聞くと、自信満々に「もう何度も見てるから、絶対に分かるよ」と答えるので、なんだか金髪の彼女を探してみたいような気持ちになった。彼女も誰かに生まれ変わり、同じ瞬間を夢で見ていたとしたら…。彼の未来に何が待っているのか、母は連続ドラマの続きを待つような気持ちでいる。

前世の記憶を持ったまま生まれる子もいるという話を別の人からも聞いたばかりだったので、ますます私の中では「彼の夢は彼の前世の記憶だ」と確信にも似た感覚を持った。こんな人はめったにいないと思いきや、長男の同級生の一人も繰り返し同じ夢を見るという。人身売買か奴隷制度かの被害者であり、苦しくて痛みを夢の中で感じると話していたらしい。

理解できない現象は人を魅了する。何度も見る夢の秘密がいつか解ける日が来るのだろうか。神様だけがどこかでほくそ笑んでいるのかもしれない。

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