香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
受診のハードル
医療崩壊が危惧される中、また、院内感染が懸念される中、少しぐらい体の調子が悪くてもなかなかクリニックに行く決心がつかない。
大阪にいた頃は、膝が痛ければすぐに受診、発疹が出ればすぐに受診、子供が発熱すればすぐに受診。家族みんな、小児科のみならず内科や耳鼻科、整形外科と1年に何度クリニックを受診したことか。結局は大したこともなく、ともすれば市販の薬で治ったかもしれない症状も少なくなかった。カナダに来てからは医療制度の違いもあり、受診のハードルがぐっと上がり、よほどのことがない限り自宅療養だ。それでもなんとかなるものだと改めて発見した。
もともと右肘に軽い痛みを感じていたにも関わらず、外出自粛が続く日々の運動不足を解消しようと、息子たちと一緒にキャッチボールをしたのが良くなかった。翌日から右肘が痛み、動かせない。痛みで夜も何度か目をさます。日本に住んでいたら間違いなく整形外科に走り、レントゲンを撮ってもらい、湿布薬を処方してもらい、リハビリコーナーでマッサージを受けていたことだろう。しかも、健康保険のおかげでかなりリーゾナブルな価格で。
ここバンクーバーでは、腹が痛かろうが、耳が痛かろうが、肘が痛かろうが、まずはウォークインクリニックに行かなければならない。そしてそこには、発熱して咳が出てウイルス感染が疑われる患者もやってくる。命に別状のない肘の痛みで、この外出自粛が続く状況下のクリニックに、感染するかもしれないリスクを払ってノコノコと出かけるわけにはいかない。と言う事で、近所の薬局で市販の湿布薬を購入し、基本的には右腕を動かさないで済むよう家事はできる限り家族に任せ、じっと安静している事にした。湿布薬ではなかなか改善が見られなかったのだが、その翌日から夫が買ってきた漢方薬をこれでもかというくらい塗り込むと、夜も眠れるようになり、痛みも落ち着いた。
日本の医療がどれほど有難いものだったかを実感させられるのだが、違う視点から考えると、ハードルが低い分自宅療養で対処できるものまで簡単に受診してしまうという社会的な問題が見える。老人たちがまるでサロンのように通うクリニックも少なくない。井戸端会議の場が整形外科クリニックの待合室などという光景はよく見られる。国の財政を圧迫しているという話も頷ける。
世界的パンデミックは、世界の医療現場を変えていくだろう。いつ収まるとも分からないこの脅威の中、最前線において自分の命をかけて病魔と闘う医療従事者の方々には改めて感謝の意を表したい。そして、なるべく彼らの仕事を増やさぬように、自分自身の健康管理をしっかりと行い、感染リスクを減らすべく外出を控えることが、私達にできる唯一のことなのだろう。
右肘の痛み、恐らくはスマートフォンの重さを支え続けるという動作の蓄積が引き金となっていたように思う。皆さんも、スマートフォンの長時間の使用にはくれぐれもお気をつけくださいませ。