香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
台風19号
台風19号のニュースをLIVEで見ていた。去年の今頃大阪を襲った台風を思い出し、今回の台風の行方を見守っていたのだ。あの日、窓から離れた部屋の中心部に母子3人で丸くなり、轟音を立てて吹き荒れる風に震えていた。風のせいで建物が揺れるという経験はあの時の他に記憶がない。しかも、今回の台風は去年のものよりもずっと大きいと報道されていたので、被害が甚大なものになるのではないかと心配だった。実家の両親に何度も電話を入れ、私が購入して実家に置いておいたランタンやカセットコンロの場所を説明したり、川を見に行かないように注意をしたりした。
台風の被害が明らかになったのは、台風が過ぎさった次の日からだ。テレビでは川の氾濫で水に浸かった街の映像が繰り返し流れていた。関東や東北、長野までが水害で深刻な被害を受けた。8年前の東日本大震災を思い出してしまう光景だった。この国は本当に自然災害が多い。しかも地球温暖化で海水温が上がったために、台風などの被害は今後さらに増えるだろう。
香港の方々も日本の避難所の写真や映像を目にしたことがあると思う。学校の体育館や公民館などに毛布や段ボールを敷いてやり過ごしている様子を。実は日本における避難所の光景は戦前とほとんど変わらない。家族ごとに仕切りなどの目隠しが設けられていたらまだプライバシーも守れるだろうが、それさえもないのが実情だ。報道されることはあまりないが、性犯罪などもあると聞く。これほど多くの自然災害がある国で、避難所の整備が全く進まないことに驚きを禁じえない。では、諸外国ではどうだろうか。日本と同じように地震が多い国イタリアでは、被災後すぐに車椅子対応の広くて綺麗なトイレが到着するらしい。その後、温かな食事が取れるようにキッチンカーが到着、そして簡易ベッドが到着し、48時間以内に家族ごとの特大テントが支給されるという。日本の避難生活とは雲泥の差だ。お隣の国韓国でも避難所は日本と同じく体育館のようだが、家族ごと個別にテントが支給される。台風の多いフィリピンの避難所でも家族ごとに仕切られる簡易テントが用意されるという。
東日本大震災以降、日本における自然災害はまさに”頻発”している状況だ。避難生活のストレスから亡くなるお年寄りや自殺者が多いという報道もある。なのになぜ、避難生活は改善されないのだろう。「災害に備えておかなかった自己責任として、不便な避難生活でも屋根と食料があるだけマシだ」と考えるべきという認識が日本人の中にあるのだろうか。「仕方ない」と諦めている人が多いように思う。けれどもし、多くの人々が諸外国の「進化を遂げている避難所」の様子を知ったならば、声を上げるのではないだろうか。明日は我が身というこの時代を生きる私たちは、どんな状況下でも最低限度の文化的生活を送る権利があることを今一度再確認し、関連機関に働きかけていく努力をしたいものである。