香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

建設ラッシュ

建設ラッシュ

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


建設ラッシュ

ここバンクーバーは建設ラッシュだ。あちらこちらでタワーマンションの建設工事が行われている。カナダ人の友人は、「これだけの量の物件数が増えて一体どこからそんなに多くの人がやってくるのだろう」と言った。香港や東京と比べても人口密度が低いこの街で、タワーマンションを何棟も立てるのに見合うだけの人口がまだまだ流入してくるという試算があるのだろうか。

かくいう私も築数年の新しいタワーマンションの一部屋を借りているのだが、先日我が家で天井から水漏れがあった。原因は備え付けの洗濯乾燥機だったことが判明し、部屋のオーナーさんが新しいものに取り替えてくれた。天井内に通された、乾燥機から出る湿気を帯びた熱い空気をベランダに排出するためのダクト内で、外からの冷たい空気と乾燥機から出た熱い空気がぶつかり、水滴となって天井内に浸透していたようだ。天井のペンキが剥がれて落ちてきたことで気づいたのだが、天井のコンクリートが紙粘土のような柔らかさになっていて驚いた。もっと驚いたことに、この問題は建物内の多くの家庭で発生していた。建築の際に構造的な問題があったのではないかと思われる。購入すれば億が付くような物件でこのような問題が発生し、家主はたいそう悔しい思いをしたことだろう。

物件の価格が高騰したことで、昔からこの街で暮らしてきたカナダ人の人々が家を購入できなくなるという問題が起きている。香港でも同じ問題があったし、先日は北海道のニセコでもこの問題が深刻化しているとニュースで取り上げていた。家が「人が住むための箱」である以上に「投資の道具」にされていることが原因なのだろう。学生時代にバブルがはじけ、就職氷河期と呼ばれた時代に苦い就職活動をした世代としては、膨らみすぎたバブルがはじける恐ろしさを思い出さずにはいられない。しばらくはヤドカリのように、自分たちの生活に合わせてその時々で気に入った部屋を借りていくつもりだ。

天井の修理に来てくれた職人さんが、新しい建物よりも古い建物の方が建築資材も良いものを使っていると教えてくれた。実際私の友人も築100年を超える家をリフォームして住んでいるのだが、古さは全く感じられず、とても素敵で羨ましかった。「建築ラッシュ」という一種時の流行のような現象とは裏腹に、100年という時の流れの中でそこに住む人々の生活を見つめてきた家には、優しい温かみが感じられた。そして、その家で友人はカナダの季節美を取り入れながら丁寧な生活を営んでいる。それはまさに「豊かな生活」だ。カナダで心豊かに生きる彼女から、私はたくさんのことを学んでいる最中だ。

Related Posts

發佈留言