香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

見えない敵

見えない敵

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


見えない敵

先週末から長男が発熱している。といっても高熱ではなく微熱だ。その上食欲もある。咳や鼻水といった症状もないが、だるそうだ。

少し前に「学校に具合が悪そうな子がけっこういる」と聞いていたので気を付けてはいたのだが、もらってしまったようだ。

いつもなら、微熱くらいで食欲もあればたいして不安になることもない。だがさすがに今は様々な懸念が胸をよぎる。

全世界的に広がるコロナウイルスの恐怖。目に見えない敵に対しておびえるしかない。

カナダに来てからまだ一度も医者にかかったことがなく、医療システムの違いにとまどっていたのだが、症状が悪化すればクリニックに連れて行かなければならないと腹をくくった。

本人がそこまでひどくないと言うので、逆にクリニックで悪い病気をうつされる可能性もあるかと、結局は自宅療養中である。

3月に予定していた一時帰国もキャンセルした。飛行機や新幹線を乗り継いで両親のもとに帰省する場合、私たちがウイルスを運んでしまうことになりかねない。

40歳代以下の致死率は決して高くない病気だが、老人は話が別だ。70歳代の両親が感染するリスクは極力下げたい。

日本に帰り、祖父母と会うことを楽しみにしていた子ども達の落胆たるや、再び正月の帰国を予定しなかった私が責められることになった。

日本の感染者数の実態はまだ把握されていない。2月末現在においても、コロナウイルスに感染しているか否かの検査が十分に実施されていないからだ。

症状が合致していて医師たちが検査を求めても、行政が応じないという状況が続いている。検査がされないがゆえに重篤化する患者が増え、ただの風邪でも国民は不安に苦しむ。

世界的な危機の中、政治への不信がさらに深まる。日本に限ったことではないと思うが、社会が複雑になると簡単に思えることが簡単には進まないものだ。

感染の疑いのあるものはすべて早期に検査を受けられるようにし、重症化する前に治療に入れるシステムを確立。経済的なダメージを受けた企業や個人を国が支援して、経済的弱者を増やさない仕組みを作る。そんな理想は戯言か。

1週間高熱が続いているのに検査すら受けられない小学生の母親が、どこに問い合わせてもたらいまわしにされるだけだと憤っていた。

幸運にも長男は改善に向かっている。今のところ次男に感染した様子もない。まだまだ油断は禁物だが、口数が増えて笑顔を見せるようになった長男を見て不安が薄れていく。

私にとって彼はかけがえのない存在だ。不特定多数の中の一人ではない。実際には、全ての人が誰かにとってかけがえのないたった一人であるはずだ。そのことに気付いている人物が指揮を執って目に見えないウイルスという強大な敵と戦ってもらいたい。

パンデミック目前のこの世界で、国民の敵はウイルスばかりではないように思う。

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