香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

誕生日

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香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


誕生日

先日、長男が14歳の誕生日を迎えた。日本では成人の年齢が20歳から18歳に引き下げられることが決まり、彼の学年から18歳で成人する。まだあどけない彼も、4年後には社会的な責任を自分で負っていかねばならない。そして私も、きちんと彼の手を離し、子離れをする覚悟を持たなければならないのだと改めて思った。「僕、一人暮らししてみたいなあ」という言葉を聞いた時、彼が生まれてからの日々を思い出し、独り立ちすることを想像し、胸が苦しくなって泣きたくなった。まだまだ先のことだと分かっているけれど、その日はすぐにやってくることも分かっている。14年前の誕生の日から今日までが、あっという間であったように。

 夫の仕事の関係で、誕生日当日にパーティーができなかったので、誕生日2日前に家族揃ってケーキを囲み、「ハッピーバースデイ」を歌った。願い事をしてからケーキの上に立っている14の数字ロウソクの火を吹き消す。彼は「つまらない願い事にしちゃった」と照れ笑いを浮かべながらつぶやいたが、何を願ったのかは聞かなかった。もう、聞いてはいけない気がしたからだ。私が踏み込んでいってはいけない場所が彼の中に築かれつつあることを最近自覚するようになった。適度な距離感が日に日に変化する年頃なので、彼の表情や態度で距離を縮めて欲しいのか、ほっておいて欲しいのかを探る。子どもと大人が混在し始めた彼の世界、まだ子どもの部分も多いので、言葉にしなくとも甘えたい気持ちが見え隠れする時もある。そんな時は、なるべく彼の近くにいるようにする。彼も私も、この限られた時間がカウントダウンを始めたことをなんとなく意識しているのだと思う。

 香港に住んでいた頃の長男の友人の多くは、高校入学を機に海外留学を希望していた。そうなると、16歳から親元を離れることになる。長男だってその可能性が大きい。自分が進みたい道が明確になった時、夢のために第一歩を踏み出した時、親の存在を乗り越えて彼らはその先にある未来に向かう。私たちは、ずんずんと意気揚々と歩き出す子ども達を静かに見守る存在に変わるのだ。泣けば抱き上げ、歩けば手をつなぐ日々を思い出として心にしまって。

 NHKのドキュメンタリーで、親離れできない・子離れできない中国人親子の社会問題を知った。過剰な応試教育の結果、受験勉強に必要な知識しか与えられなかった異常に幼稚な若者が増えているという。番組で取材を受けていた親子は、就職活動に母親が同行して会社側と話をしている中、高学歴の息子は母親の手を握りながら黙ってそれを見ているだけだった。最近は婚活も親が行うことが多いと聞く。これではいつまでたっても子が自立できず、親の負担は死ぬまでなくならない。一動物としても完全に失敗だ。

 育児の目的は子どもの自立だ。難関大学に入学させることに成功しても、一流企業に入社させることに成功しても、自立させることができなければ育児失敗だ。本能的には、子ども達も親離れの欲求を持っているものだと思う。思春期やら反抗期やらが起こる理由もそこにあるのではないだろうか。

 後どのくらい彼と一緒に暮らせるのか分からないからこそ、この貴重な日々を大切にしたい。そして、私の人生観や世界観をできる限り子ども達に伝えて、私自身がこの世に存在した意味も残したいと思う。それを受け取る彼らがきちんとそれを消化して、自分のものに作り変えてくれることを願う。『思い』は世代ごとにアップグレードしながら未来に繋がっていく。誇り高き使命を私たちは負っているのだ。いつか我が子の自立を迎えた時、私は自分を褒めてやりたい。

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