香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
ホームステイ
長男が友人を家に招いて良いかと聞くので快く承諾したのだが、4人も一度に連れてきて驚いた。3人の日本人と1人の中国人、皆ホームステイをしているという。日本人の友人達は長男に「味噌汁が飲みたい」「ラーメンが食べたい」とリクエストをしていたようだ。まさか夕飯を振舞うことになろうとは思いもせず、どうしようかと思案したが、たまたまカレーのルーを購入したばかりだったので「カレーなら作れるけど」というと、皆が大喜びだった。
意外なことに、友人4人のホストファミリーは皆フィリピン人だという。カナダにそれほど多くのフィリピン系の人達が暮らしていることを私は知らなかった。中国系や韓国系のホストファミリーなら、日本でもポピュラーな食べ物が多いので食事にそれほど問題はなさそうだが、フィリピン料理というのは日本人にとってあまり馴染みがない。香港に住んでいた時に、ヘルパーをしているフィリピン人達が日曜日に街に集まって会食をしている様子を何度も見たが、揚げ物が多かった印象だ。住み慣れない街で、食べ慣れないものを食べている子ども達を少し不憫に思いながら、それでもたくましく成長する良い機会になっているんだろうなあと思った。
こちらの小学校はランチ持参なので次男には毎日弁当を作っていたが、セカンダリーに通う長男もついでに持たせることにした。物価が高いので、ランチを外食させるよりはるかに経済的だ。栄養バランスを考えればなおのこと弁当を持たせたい。毎朝6時に起きて、せっせと弁当作りに励む。昨日、長男が空になった弁当箱を私に渡しながら「みんな羨ましがってる」と言った。ホストファミリーが彼らに用意してくれるランチは、果物とポテトチップスらしい。同じアジアだが、かなり食文化が違う。友人達もきっと、初めて見たそのランチに驚いたことだろう。
栄養の面からも、味覚の面からも、ポテトチップスを食事として摂取することはよろしくない。しかし、食事代もホームステイ費用に含まれているであろうから、拒むことも難しい。もしも我が子が彼らのようにホームステイをしていたなら、自身の健康を考えて問題の解決を試みることができるだろうか。身体を壊してから連絡が来るようなことが起こらないとも限らない。生かされている状況から、生きる覚悟を持つようになるのはいつ頃からだろう。我が子が自分の足で立ち、歩く1人の人間に成長するまでに、後どれほどの時間を私が傍にいてやれるだろうか。親元を離れなければ経験できないことがたくさんある。長男の友人達は、一足先にそれを学んでいるように見える。
私自身、若い頃下宿やらホームステイやらで、他人の家で生活するという経験をした。不自由さに悩むこともあったが、私を受け入れてくれた人達との出会いが、その後の私の人生を変えたと言っても過言ではない。今ここにいることさえも、若い頃のホームステイが影響している。
他人と暮らすことは難しい。円滑に問題を解決していくには相当なコミュニケーションスキルを要する。しかし、そのコミュニケーションスキルを習得したならば、未来はきっと有望だ。長男の友人達が、彼らの知恵と努力で問題を解決してくれることを願う。そして長男には、今の自身が置かれた状況がどれほど恵まれているのか自覚し、親に感謝する気持ちを持って欲しいものだ。
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