香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

低い太陽

低い太陽

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


低い太陽

弁当を作り終えて、子ども達が起きてくるのを待つ朝7時過ぎ、窓の外はまだ真っ暗だ。街灯と行き交う車のヘッドライトの明かりが大通りに沿って見えるだけ。なかなか起きてこない次男を見に行くと、まだ深い眠りの真っ只中にいる。8時半に家を出れば登校時間に間に合うので、ギリギリまで寝かせておくことにした。

8時を過ぎてようやく明るくなってくるのだが、長年こちらに住んでいる友人によれば、これからさらに夜明けが遅くなるらしい。そしてもちろん、日が沈むのも早い。夕方4時半を過ぎれば暗くなる。地球のあちらこちらに移動する機会が多いと、太陽と地球の位置関係や、地球の自転などに自然と興味を持つようになる。そもそも日本との時差が17時間あることで、子ども達とタイムマシンが実現できるか否かの話題になることも多い。祖父母の住む日本と、自分たちの住むカナダでは、時間どころか日にちが異なる時間帯もあり、「そっちは今、何日?」などという奇妙な質問が成立する。「市民、国民」から「地球民」というスケールの視点に立つことで、子ども達自身の思考のスケールが大きく広がってくれると嬉しい。

「冬はずっと雨」だと多くの人が口を揃えて言うので、覚悟して雨の季節を迎えようと心構えをしていたのだが、意外に晴れることも多く、新参者にはありがたい天気が続く。ただ、晴れた日の方が寒いようだ。日差しに誘われて公園などに行く場合には、ニット帽やマフラー、手袋などで完全防備しなければ、寒すぎて痛い目にあう。夏場には人があふれる海沿いの公園も、数えるほどしか人はおらず、数羽のカモが水に浮いたり潜ったりしているだけ。冷たい空気の中に広がる静かな世界。「贅沢な時間」という言葉が頭に浮かんだ。友人と整備が行き届いた公園内の遊歩道を歩きながら、自分の影が長く伸びていることに気づき、思わず「これ見て!」と友人を呼び止めた。時は正午だ。太陽が一番高い位置にいるはずなのに、私の影は数メートルにわたって真横に長く伸びている。まるで夕方の影のよう。カナダで生まれ育った友人は私の驚きにキョトンとした表情を見せた。これが当たり前でない場所から私はやって来たの!という興奮を伝えたかったのだが、少し大人気ないようでやめた。そして心の中でこの興奮を反芻した。

太陽が低いことで困ることもある。それが車の運転だ。太陽が真横から目に差し込んでくることで、危険度がかなり高まる。よく「太陽が目に入る」というが、「太陽が目に刺さる」という表現の方がぴったりくる。メガネの上からサングラスをかけて、眉間にしわ寄せ運転している自分の姿を想像すると凹むが、安全第一だ。

おっと、次男を迎えに行く時間が迫ってきた。今日の空は曇り。窓の外で行き交う車達は影を連れていない。まずまず、太陽に目を刺されずに行って来られるだろう。それでもこの季節、誰もが恋い焦がれる太陽。今度はいつ会えるだろうか。

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