香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
兄と弟
兄弟喧嘩の仲裁ほど気が滅入るものもない。ほっとけば良いと分かっていても、耳に入ってくれば無視もできない。１４歳と１０歳では体格差があるので、力の差も大きい。怪我でもしたらと気が気でない。ケンカの始まりはいつも、実にくだらない些細なことだ。ケンカしている本人達も、どうしてケンカになったのか忘れてしまうことさえある。全く、モンキービジネスである。
「ケンカするほど仲がいい」とはよく言ったものだ。なぜ喧嘩になるのかといえば、年がら年中じゃれ合っているからだ。何がおかしいのか、二人でケタケタ笑いながら大騒ぎしていたかと思うと、不注意で顔に肘が入ったとか、大事なものが壊されたとか、突然大声で怒鳴る声が聞こえ、どちらかが私の元にドタバタと走って来る。毎度のことだが、マンションの下の階に住んでいる友人家族に申し訳ない気持ちだ。
一度、二人が喧嘩した後で私が「お互いに口を聞くことを許さない」という罰を与えたことがある。この罰を与えて２日目には、二人が根を上げて謝りに来た。結局、じゃれ合ってないと退屈なようだ。
喧嘩があることで、私が叱る回数が増える。叱るという行為は、ものすごくエネルーが要る。こちらも感情が高ぶるし、かといって感情をそのままぶつけても意味がないのも分かっているので、湧き上がる怒りを一方で押さえ込みながら、どのように叱るべきかを頭をフル回転させて考える。こちらが本気で怒っていることを理解させながら、叱られることで子ども達が学べるようにしなければ、私にとっても子ども達にとっても、時間の無駄になってしまう。そう、私が叱る回数を、子ども達が学ぶ回数にすることが理想的なのだ。私の説教は長い。話しながら私自身も冷静さを取り戻していく。責めすぎないように気をつけながら、この機会に何を学んで欲しいのかを説く。たとえ夜遅くなってしまっても「鉄は熱いうちに打て」だ。心が動いている時に、私の言葉が届いて欲しいと、思いを伝える。
変化が現れてきたのは長男の方だ。相変わらず喧嘩はするが、弟に対して力の加減や感情を抑える様子が見られるようになった。叱られた直後は反抗的な言動で私を苛立たせるが、しばらくすると自分から謝りにやってくるようになった。こんな時私はすぐに許すことにしている。揺るがない愛情がここにあることを確信してくれたら、彼らはきっと強く健やかに成長できると信じるからだ。
一度や二度叱ったところで、個々の欠点などはすぐに直るものでもない。長男は相変わらずしつこいし、次男は相変わらずすぐに手が出る。それでも兄弟がいることで学べたことも多いだろう。彼らが大人になった時、お互いを誰よりも理解しあい、助け合って生きていってくれたら、親としてこれほど心強いことはない。次男が生まれる少し前、弟の誕生を心待ちにする幼い長男にこう言った。「この弟は、母ちゃんが君に贈る最大のプレゼントだよ」。ようやくその意味が、分かってきたようだ。
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