香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

冷たい駅弁

冷たい駅弁

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


冷たい駅弁

ゴールデンウィークが始まった。今年は10連休だ。早々に実家へ帰省する。森と畑が広がる故郷は、緑に注ぐ太陽の光が元気いっぱいで、初夏の色だ。ここまで新幹線と在来線を乗り継いで3時間。子供たちが大きくなった分、移動の負担も減り、旅行気分だ。


国内旅行のお楽しみといえば駅弁。予定よりも早く駅に着いた私たちは、出発までの時間で駅弁選びをすることになった。ファーストフードから幕の内弁当、牛も鶏もうなぎもあって迷ってしまう。そんな中、長男だけは早々に心を決めた。私と次男は目移りしながら店から店へとさまよう。次男が牛肉に半熟卵がのった弁当を見つけて「これ」と言うので、私も同じ店で唐揚げ弁当を注文した。店員さんにオーダーを伝えようとすると長男が、「唐揚げ?」と言い、不思議な顔で私を見た。私は気にもせず注文し弁当を2つ受け取った。そのまま長男お目当てのお弁当屋さんに向かい、作りたての弁当を購入し新幹線に乗り込んだ。


お腹が空いていた私たちは指定のシートに座るなりお弁当を広げ始めた。そして唐揚げを1口食べた私は思わず「冷たい」とつぶやいた。それを見ていた長男が大爆笑し始め、「だから買う前に聞いたじゃん、なぜこの店で唐揚げ弁当なんだって。明らかに冷蔵庫に弁当入ってただろ!」長男は揚げたてのチキンが入った自分の弁当を頬張り、「うまっ」と得意げに言った。彼は「ちょっと食べてみな」と熱々のチキンをひと口くれて、その味に私は泣きたくなった。長男曰く、彼が弁当を買った店は鶏肉を使ったお弁当の専門店で 、受付の後ろには厨房が見えていたそうだ。唐揚げ弁当を買うのなら、確実にこちらの店のほうがうまそうだったのに、あえて冷蔵庫に弁当が並んでいた店で私が唐揚げ弁当を注文したので驚いたのだと言う。


観察力… 観察力が長男の方が優っていたということだ。落胆する私にもう一口柔らかアツアツのチキンをくれた。

私の母は最近、「老いては子に従え」という言葉をよく使う。時代の移り変わりにそって、常に新しい情報や知識を獲得することも、するどい観察力や適切な判断力を維持することも、高齢になる程難しい。体調を崩した時の専門医を探す時、家族旅行の手配をする時、母は私を頼ってくれるようになった。やっと一人前になれた気がして、嬉しくも誇らしい気持ちだ。


今、息子が私よりもITに関して詳しい。私よりも周りがきちんと見えていることも増えた。マヌケな失敗をして落ち込む母を、少し大人びた顔で慰めることもできる。数年後、時代の中心にいるのは私ではなく息子達なんだろうなあと思う。息子達の声に素直に耳を傾け、マヌケな失敗を減らしていくことが、これからの人生の幸せのカギなのかもしれない。

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