香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

大きな翼

大きな翼

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


大きな翼

まだ暗いうちからアラームが鳴る。毎日子ども達に持たせる弁当を日が昇る前から作り始めなければならない生活は、学校給食があった日本と比べて正直、面倒だ。子ども達を起こす時間にまたアラームが鳴り、朝食を用意し、学校まで車で送っていく。これまた、子ども達が付き添いなしで登校する日本と比べて面倒だ。香港の時のように、マンションの下までスクールバスが来てくれるわけでもない。昼食を終えてしばらくすると、今度はお迎えの時間をアラームが知らせてくれる。忙しいのか暇なのかよく分からない毎日が過ぎていく。

 

学校から家までのドライブの間、その日の出来事を興奮気味に次男が話してくれる。そしてほぼ毎日、車に乗り込んでこう言うのだ。「本当に来て良かったわ」と。留学生活が始まる数日前は、「絶対にいじめられる」「友達できない」などネガティブな発言が多かった次男だが、学校が始まって1週間もすると、私が覚えきれないほどの友達の名前が次から次へと出てくるようになった。最近は学校のクロスカントリーチームに参加するようになり、朝の練習に出かけたり、他校の生徒たちとの合同練習のため、学区外の公園まで放課後に行くこともある。彼は私が想像していたよりもずっと積極的にこのコミュニティーに溶け込んでいる。先日、朝からの頭痛で学校を休んだ時、初めて彼は「学校に行きたいのに」とつぶやいた。今までは風邪でも頭痛でも、学校を休みたいがために大袈裟にしんどそうな顔を作っていた彼からこんな言葉が出てくるなんて、正直驚いた。逆に今までなぜ学校を休みたかったのか。「日本の学校とカナダの学校の何がそんなに違うの?」と質問した私に、彼は「自由!」と即答した。

 

子どもでも大人でも「自由」は理想だ。世界中あちこちで、自由のための戦いが繰り広げられている。まさに香港でも人々は「自由」を死守するために戦っている。ではなぜ、日本や香港では子ども達の「自由」が知らず知らずのうちに奪われてしまっていたのか。子ども達はなぜ「不自由で窮屈だ」と感じながら生きなければならないのか。大空を羽ばたきたい彼らの大きな翼は、そのチャンスを奪われるたびに小さくなっていき、いつか飛ぶことを諦めてしまうかもしれない。大人と同じように、否それ以上に、子ども達も「自由」を欲しているのだ。次男はなんとなく感じ続けてきた「窮屈」を、「自由」を手にした瞬間に自覚したようだった。

 

次男は「自由」と私に即答した後、しばらく考えて「みんな優しい」と言った。ストレスのない子ども達は人にも優しくできるのかもしれないと私は思った。大人だってそうだ。心に余裕がないと人に優しくなんてできない。

 

少しだけ忙しくなった朝も、緊張が抜けきらない苦手なドライブも、子ども達の明るい笑顔を思えば、努力する甲斐があるように思える。

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