香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

少年の約束

少年の約束

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


少年の約束

その日学校から帰ってきた次男は、「手紙が無駄になったよ」と吐き捨てるように私に言った。どこまで悲しいのか、どこまで平気なのか、表情からは本心を読みとれない。昨日準備した手紙というのは、引っ越すことになっていたお友達に渡すため、自分の連絡先を記したものだった。「もう引っ越しちゃったんだって」と次男は自虐的な笑いを見せた。私はすぐに彼のお母さんの連絡先がどこかに残っていないか探した。クラスが違うお友達だったので引越しがいつなのか知らなかったのだが、年度末の3月途中で移動するとは思いもよらず、新学期から次の学校に通うものだと思い込んでいた。次男にはきっと裏切られたような気持ちも少なからずあったのではないかと思う。なぜなら、彼らは将来の夢を約束していたからだ。

次男はよくこのK君の話を私にしてくれた。二人には「恐竜博士になる」という共通の夢があり、それを一緒に叶えようと学校で語っていたらしい。同じ夢を追いかけようとする二人の少年の姿を想像するだけで、微笑ましい気持ちになった。いつか夢が叶って、大人になった二人が異国の地で一緒に恐竜の化石でも掘っていたなら、なんて素敵だろう。

彼のお母さんの電話番号を数年前の学校資料から見つけ、思い切って電話してみることにした。面識のない方だったので、引越し直後で忙しい中電話することにためらいを覚えたが、ここは電話すべきと心に決めたのだ。事情を話すと、彼のお母さんも驚きと喜びに満ちた声で応じてくれた。そして、LINEのIDを交換することができた。

K君のお母さんからのメッセージで、K君も次男と同じことを話していたと知った。世界的に有名なロイヤル・ティレル博物館があり、恐竜マニアの聖地と呼ばれるカナダに中学から留学することをK君が目指していることも教えてくれた。全く同じ夢を持つ次男は、それを聞いて飛び跳ねて喜んだ。お互いの住所を交換し、手紙を書くと伝え、次男の写真を送ると、まだ家具もないだだっ広いきれいな部屋でピースをするK君の写真が送られてきた。新しい土地で新しい生活を始めるK君と、次男の心がまたつながったように感じた。

「つながっていたい」という気持ちがあれば、遠く離れていてもつながっていられる時代だ。約束を交わした友達が、遠いどこかで頑張っているんだと思えば、それは大きな励みになる。そして、いつかまた一緒に夢を叶える日が来ると信じられたら、それは次のステップへのモチベーションとなるだろう。

小学生男子は不器用で、不器用さゆえに自分の掌からこぼれ落ちていくものを拾えずに諦めること、そしてそれらを忘れていくことがたくさんあるだろう。人生の先輩として、あきらめるべきでない、手放してはいけない「価値あるもの」を教えたいと思った出来事だった。

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