香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
暑過ぎる夏
暑過ぎる夏が体力もやる気も奪い、スーツケースは開けっ放しになったまま動きがない。新天地に向かう旅立ちの日は刻一刻と近づいているのに、大量の荷物を前にしてボーと固まってしまう。猛暑というのは本当に厄介だ。
地球温暖化が現実のものとして実感できるようになった。 世界的にも異常気象が続く。しかしながら対策はほとんど進んでいない。それどころか、政治的な混乱が続発していて、各国が協力して世界規模の問題に立ち向かうのとは真逆の状況だ。
東アジアに住んでいると、不穏な空気を感じずにはいられない。「平和」が逃げて行ってしまいそうだが、それを引き留めておく手立てがない。これほどまでに人類に対して失望したのは初めてだ。過去に犯した過ちをあえて繰り返そうとする意味が分からない。
混乱する香港の状況をテレビで見ながら「僕のホームタウンがなくなっちゃう」と長男が呟いた。いつ帰れるのか、帰れる日が来るのかさえ分からなくなった。日本では憲法を軽視する政治が続き、国民の権利などは風前の灯火だが、多くの人はその危険性に気づいていない。我が子らの二つのふるさとがともに沈没し始めた船のようだ。
日本で報道される香港は暴走するデモ隊が強調されているが、香港の家族や友人から聞く状況は全く別の視点から見た、全く別のもの。何を誰から聞くかによって、物事は違う様相で現れる。正しい姿を見るためには、様々な角度から見なければならないのだが、それは非常に難しい。何もかも不確かに思えて、手に負えない気がして、自分の無力さにさいなまれるばかりだ。
日本と韓国の関係悪化も然り。どちらかの言い分だけを鵜呑みにすることの危うさを思う。結局のところ、権力者の都合で国民は振り回されているだけに思える。隣人を敵に回して非難し合う先に何が待っているのだろう。学生の間では空前のKポップブーム。その魅力に惹かれる子ども達は日韓友好の道を切り開いていってくれると信じたい。
暑過ぎる夏のせいで、小学生のプールや中学生の部活が中止になっている。明らかに今までと違う夏。京都に訪れている外国人観光客がテレビの取材に「日本は苦しい」と日陰にしゃがみ込みながら答えていた。来年はこの暑さの中オリンピックが開かれる。アスリートが暑さで倒れたりしない事を祈る。ボランティアが暑さで体調を崩さないように願う。そして、オリンピックが平和の中で世界中の人々が楽しめる祭典となることを望む。
国境を超えて、世界中の人々が手と手を携え、人間が作り出した災難を乗り越えるための知恵を出し合い、私利私欲を超えて、子ども達の未来を守れるよう協力していけたら良いのにと心から思う。平和を望むことが「偏った思想」と捉えられかねない現状がいつか終わると信じて、私達はしばらく頭を冷やしに行ってこよう。