香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

用膳時間

用膳時間

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


用膳時間

私は食べることが大好きだ。けれど、食べるのが遅い。そのために悲しい思いを何度もしてきた。中学生の頃行った家族旅行では、食事に時間がかかりすぎる私に対して父が腹を立てた。私は叱られながら、涙を流しながら、それでも最後まで食事をしたことを覚えている。社会人になってからも、職場の先輩に「お前は食べるのが遅すぎる!」と叱られ、周りの人が食べ終えると、食べ足りないのを我慢して食事を終えるようにしていた。

 

先日、気になるニュースを耳にした。横浜市にある中学校の9割は給食の時間が15分しかなく、保護者から改善を求める声が寄せられていたが、学校のスケジュールの関係上改善できないというものだった。会社員の昼休みだって1時間あるのに、食べ盛り育ち盛りの中学生の食事時間が確保できないというのはいかがなものだろう。本当に重要なことが後回しにされている気がした。我が子は大丈夫だろうか…。次男は朝食があまり食べられないので、お腹が空いて給食はたくさん食べていることだろうと勝手に思い込んでいたのだが、給食時間の問題は他人事ではなかった。残すことができないので、時間内に食べ終わるようにあらかじめ量を減らして食べているというのだ。彼にとってもやはり、学校の給食の時間は短かった。驚いて長男にも確認すると、日本に帰国してすぐの頃、給食時間中に気分が悪くなり吐き気を覚えることが多かったのは、給食時間が短い中で食べきらなければならないプレッシャーによるものだったと聞かされ、さらにショックを受けた。

 

日本の学校給食のシステムは素晴らしいと思う。食事の内容は栄養士が管理し、子供達自身で配膳し、片付ける。諸外国と比べても、誇れる制度だと思う。だが、子どもが給食室まで給食を取りに行き、それを教室に持ち帰り、食器に盛り付け、配膳し、生徒みんなが静かになるのを待ち、「いただきます」の挨拶をするまで、相当の時間を要することは想像に難くない。低学年になればなるほど、そこに時間を費やすことになるだろう。割り当てられた時間の中で、給食を食べ終わり、片づけをし、また給食室まで空の食器を運ばねばならないので、クラスメイトとおしゃべりしながらランチを楽しむ余裕などないと想像される。特に、食べるのが遅い子どもにとって、給食はプレッシャーになっていることだろう。

 

私が小学生だった頃、給食時間内に食べきることができなかった生徒は、給食後の掃除の時間も埃舞う教室の片隅で給食を食べさせられた。私もそんな屈辱を何度か経験した一人だ。ただ、私は好き嫌いがなかったので、吐き気を堪えて給食を食べ終わるような苦痛はなかったが、好き嫌いのある同級生は本当に辛そうだった。

 

食べることは生きることに直結する。だからこそ、食育は教育の中でも大きなテーマだと思う。栄養面だけでなく、食事を楽しめる人間になることが生活の質の向上につながるはずだからだ。そう、「クオリティー・オブ・ライフ」を重視する環境がもっと広ることを心から期待する。時間に追われて、「子ども達が楽しめる食事」を知らず知らずのうちに大人の都合で奪っていたとしたなら、それはとても悲しいことだ。

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