香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

選挙って難しい

選挙って難しい

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


選挙って難しい

今日は市議会議員選挙の投票日だった。いつもは一人で行くのだが、お天気の良い日曜日、ひねもす家でアニメばかり見ている次男を連れ出すべく、投票所まで一緒に行こうと誘った。キックボードでスイスイと進む次男の後ろ姿を見ながら、私自身が数十年前に両親に連れられて投票所まで行った遠い昔を思い出した。



投票所の中にはいつも入れてもらえなかった記憶がある。弟たちと投票所に面した道の傍らで、両親が投票を済ませて戻ってくるのを待っていた。行き来する大人たちは今よりも多かった気がする。混み合う時間帯に行ったのかもしれない。両親の姿が見えると駆け寄って「誰にしたの?」と無邪気に聞くが、「絶対に人に言ってはいけないことなの。家族でもダメなんだよ」と言われた。子ども心に不思議に感じたのを覚えている。秘密にせねばならない理由が理解できなかったからだ。選挙前になると選挙カーが「清き一票を!」と大音量で町中を走り回るのもあって、神聖なことなのかと誤解していたほどだ。



私が投票をしている間、次男は投票所の道を挟んだ向かいにある公園で待っていた。投票を済ませて外に出ると、次男はすでにこちらに渡る横断歩道の前にいた。公園に知り合いがいなかったので、このまま一緒に帰るという。私達は、人もまばらな投票所を後にした。



私は真面目な性格なので、選挙での投票は国民の義務だと思い、投票が可能な環境下では必ず投票に行った。香港に住んでいる時でさえ、領事館まで投票に行ったものだ。しかし、中途半端な真面目さなので、誰に投票すべきかは分からないまま投票した。立候補者の経歴や思想を研究するわけでもなく、ポスターで見た顔の印象で投票することが多かったように思う。「権利」とか「義務」とか、社会の授業で出てきた単語を意識して意気揚々と投票し、任務完了のような満足感を感じながら投票所を去った。今思うと、なんだか馬鹿馬鹿しい。


立候補者の名前を叫ぶ選挙カーと、街のあちこちに張り出されたポスター、郵便受けに届く立候補者のチラシ、これらを材料に候補者の適性を見極めるのは非常に難しい。今はスマホで気になる候補者を簡単に検索できる時代だ。間違った選択をする前に、少しの手間を惜しまず、清き一票を託す人物の人柄や能力を下調べしておきたいものだ。



実家の母親に電話して、なぜ私が子どもだった頃投票先を家族にも秘密にしたのか聞いてみた。その答えは意外なものだった。「誰にも言ってはならないものだ」と私に言った記憶はなかったものの、恐らく、きちんとした理由のないまま写真などで投票先を選んでいたことに対し、気後れを感じていたんだろうと母は言った。結局、私や母を含め、多くの人が確たる自信もないままに立候補者の一人を選んでいたのだ。自分達の生活に直結し、子供達の未来に直結する政治を行う人物として。


民主主義って難しいとつくづく思う。平和な世の中では、選挙権を行使することすら面倒に感じている人も多い。一人一人の意識が高い国でなければ、民主主義の本当のメリットは活かされないだろう。日本人はもっと政治の話をしたほうがいい。自分の考えを表したほうがいい。何を思うか秘密の中で、みんなが迷っているように思えてならない。

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