香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
マメな男
韓国ドラマを見ていると「付き合い始めてから100日目の記念日」というセリフが出てきて、そんなこと覚えてるなんてすごいなあと驚いたのだが、先日私が「もうすぐ結婚記念日だね」と夫に言った時に「いつ?」と聞かれたのにはもっと驚いた。今年で結婚21年目だ。
私たち夫婦の場合、香港で婚姻届を出した日と日本で届を出した日が違う。そのせいで夫の記憶には結婚記念日があやふやな形で残ってしまったのだろう。そう思うことにした。うん、そう思うことで納得しよう。
先日の母の日、外国人の友人達から「Happy mother’s day」とメッセージが届いた。子どもを持つママ達みんなに感謝を表す日だったのかと認識を新たにしたのだが、その日の夕飯になっても家族からは何の言葉もなかったので「今日は母の日だよ」とついに自ら口にしたところ、夫と息子二人は「おうっ」と言っただけ。「おうっ」って何だよ!長男にいたっては「まあ、幸せだからいいじゃん」と言い放ったので、「この子は韓国人の女の子とは付き合えないだろうなあ」と私は心の中で思った。
1年が365日もあるから仕方ないのだが、基本的には毎年私の誕生日も何事もなく過ぎ去っていく。誕生日なんて老いていくばかりで少しも嬉しくないのだが、「おめでとう」の連絡を自分の両親からもらうだけなのも少し寂しい。数日が過ぎた後で「誕生日が終わった」と打ち明けた時の夫の『しまった!』と言う顔を見て楽しむ私も、なかなかの性悪だ。まあ、話のネタになるなあと思うくらいで特に気にしないので、毎年忘れられるのだろう。
こんなことばかり書くと私が家族からあまり大切にされていないのではないかと誤解されてしまうかもしれないが、そんなことは決してない。家にいる時には常に誰かが私の傍にやってきて、話したり笑ったり、一人の時間を持つことが難しいくらいだ。誰かが私を怒らせると、別の誰かが慰めに来るぐらいには大切にされている。我が家の男たちは決してマメではない。けれども温かい。だから、形ばかりのイベントに振り回されずに済むのだろう。先日、夕飯の最中に夫から「自分より幸せな人の名前を挙げてみて」と言われ、すぐには答えられなかった。なんだか目から鱗だった。この環境を与えてくれた家族に感謝しなくてはいけない。
母の日の夕飯の後で次男がそそくさと子供部屋に入っていった。すぐに出てきて「母ちゃんにLINEした」と言うので確認すると「Happy mother’s day, I love you」とあった。「ありがとう!」と私が言うと、次男が私をギュッと抱きしめてくれた。2020年、パンデミックの真っ只中で家族揃って過ごした母の日を私は一生忘れないだろう。