香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
楽チンな母親なんて存在しない
香港にいる頃、私はよく褒められた。乳児を抱いて幼児の手を引き、買い物袋を下げていたからだ。「自分で子どもの世話をしてるの?」と聞かれ「はい」と答えると、「食事も自分で作っているの?」と次の質問があり、「はい」と答えると、「すごい!偉い!」と驚きと感嘆に満ちた声が返ってくる。ある香港人のママ友は「そんなこと日本人にしかできない」とまで言った。もちろんそんなことはないと思うけど…
私としては、香港の狭いアパートに他人であるメイドさんを住み込ませて、生活を共にする方が、幼い我が子の面倒をみるよりずっと耐え難い。次男が生まれてすぐの頃、夫の仕事が忙しく、手助けがない状況に弱音を吐きたくなる時も確かにあった。その度に夫はメイドさんを雇うことを提案したが、私は絶対に首を縦に振らなかった。生活から自由が奪われそうで、その結果自分が壊れてしまいそうな気がしたからだ。
日本に帰国して私が目にした光景は、香港のママ達には信じられないものかもしれない。自転車の前と後ろに子ども用のシートを取り付け、前のシートには小さな子、後ろのシートにはもう少し大きな子を座らせ、抱っこ紐で赤ちゃんを胸元に抱きながら自転車でスーパーに買い物やら幼稚園の送り迎えやらをしているママ達。まさにこれこそ感嘆に値すると、私は胸の詰まる気持ちになった。3年以上経った今ではすっかり見慣れた光景になったが、この状況でパートまでしているママもいるのだから、本当に頭が下がる。
メイド文化のない日本は、深刻な待機児童問題もあって、子どもができたら仕事を諦めなければならない女性が多い。産後の職場復帰はとても難しいと聞く。仕事に誇りや生きがいを感じている女性にとって、出産は大きな壁なのだ。その点、香港の女性はキャリアに関して、男性との差が日本より少ないのではないだろうか。メイドさんにベビーを任せて、産後すぐに職場復帰した知り合いも多い。一番可愛い時期の我が子をメイドさんに託して出勤するママの切なさも想像できる。楽チンな母親なんて存在しない。
子どもは、適切な時期に適切な愛情やスキンシップを受けていれば、健全に成長する。3歳までは母親が面倒を見るべきだという3歳神話はただの迷信だ。私が育児に専念したのは、私がそうしたかったからに過ぎない。母親のあるべき姿は、十人十色だと私は思う。しっかり愛情を注ぎ、我が子の未来を思い、日々奮闘する。そうすれば、働くママも専業主婦も胸を張って社会に貢献していることを誇れるのだと思う。
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