香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

5年生のルール

5年生のルール

香港子育て回顧録 -これまでも、これからも

白井純子 

愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。

2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。

2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。

 


5年生のルール

新学期早々次男が学校から持ち帰ってきた書類の中に、『5年生のルール』というものがあった。

「学習に必要のないシャープペンシルやカラーペンは持ってこないようにしましょう。サイン帳や交換ノート、メモ帳、マンガ雑誌、ゲームの本など学習に必要ないものは持ってこないようにしましょう。朝の読書の時間には図書の時間に借りた本を読みましょう。家から持ってきた本を読んでも構いませんが、自分で管理して友達どうしで貸し借りをしないようにしましょう。雨の日は教室や図書館などで静かに過ごしましょう。教室ではトランプ、かるた、百人一首を使って遊んでも構いません。忘れ物をした時は友達に借りずに先生に言いましょう。また他の人のものを勝手に触らないようにしましょう。」

これを読んでも何も思わない親の方が多いのかもしれない。しかし私は、読んでいてため息が出てしまった。友達どうしのトラブルが起きないように、事前に全てを禁止しておくという学校の姿勢がはっきりと見て取れたからだ。私が小学生だった時代よりもそのルールは厳しい。上記以外にも学習面、生活面のルールが一覧となって書かれており、そして最後にこうあった「一人ひとりが今何をしたら良いかしっかりと考えて行動しましょう。みんなでがんばって素晴らしい学年集団になっていきましょうね」正直私は恐怖さえ覚えた。ルールでがんじがらめにしながら、自分で考え自分で行動すると言うスローガンだけ掲げる。決定打は「素晴らしい学年集団になっていけ」というところだ。「個」ではなく「集団」であることを幼い頃から叩き込む。長男が同じ小学校で学んでいた数年前よりもすでに、学校生活は窮屈で堅苦しいものに変化した。

数日前に国際基督教大学学生部長の書いた記事を目にした。入学式に参加した学生の99%が黒のスーツに白のシャツだったそうだ。「国際」をうたう大学に入学してきた学生たちの「没個性」に衝撃を受けたという内容だった。私は大学の入学式にオレンジのスーツで参加したのを覚えている。少数派だったことは間違いないが、気まずくなるような雰囲気はなかった。国際基督教大学も以前は民族衣装などを着る学生がいたそうだ。

小学校教育から培われた「集団を重んじる社会的環境」は、大学や会社に入る年齢に達する頃には、空気のようにあたりまえな存在になり、何の疑いもなく受け入れて生きていく人間が出来上がる。

子ども達自ら、個人であるよりも集団を形成する一部であることを選択してしまう。みんなと同じであることに安心感を感じてしまう。これは日本の弱点になるのではないかと私は危惧している。人と違うことをすることに抵抗を覚えてしまうと、イノベーションは起こりにくい。そして、集団が間違った方向に流れた時、ブレーキが効かなくなる。

友達に借りた消しゴムがなくなった時、どんなふうに謝って許してもらうのか。交換ノートで誰かを傷つけてしまったら、どのように反省して自らを改善していくのか。子ども達に考えるチャンスを与えて欲しい。また、大人が叱る機会を得ることで、子ども達も学べる機会にできるのではないのか。教師の人手不足や労働時間の問題なのか、資質の問題なのか、教育界に忍び寄る政治的問題なのか。いずれにせよもの思う母には、憂いを抱く春となった。 

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