香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
6月9日
夫が送ってきた写真には、『人の川』が写っていた。それは6月9日のデモに参加する人の群れ。「中国への身柄引き渡し条例」の改正案に反対する香港の人々の強い思いは、身を結ぶのだろうか。まだ香港に住んでいたならきっと、私や息子達もこの流れの中にいたに違いない。今日は夫だけがそのデモに参加している。写真を眺めながら複雑な気持ちでいると、テレビでもBBCが香港のデモを取り上げていた。とっさに長男をリビングルームに呼んで、画面に映る香港の様子を見せる。時代の変わり目に立ち会う経験を、わずかでも感じて欲しいと思った。
自由で法治都市である香港は、特別な存在感があった。エネルギッシュであり、インターナショナルであり、中華であっても中国でない独特な文化とそれに対する人々の誇り、世界中からこの魅力に魅了された観光客たちが香港を訪れる。しかし、長い年月をかけて築き上げてきた文化も壊される時は一瞬だ。香港を中国の一地方都市にしてしまったとして、誰が得をするのだろう。権力とお金がこの世からなくなれば、人はもっと幸せになれるだろうか。
ただ同情的な気持ちでこのニュースを見ていたのではない。半分は羨ましいという気持ちが占める。こんなにも多くの人々が立ち上がる香港の状況が羨ましい。意志を、思いを、行動で示す強さを持ち合わせる人々、自分たちの社会や生活を自分たちの手で守ろうとする人々に、心から敬服する。全く同じ状況に日本人が置かれても、恐らく多くの国民は声を上げない。デモに参加するのは、かなり限られた人達だ。10年以上前に私が東京で「自衛隊イラク派遣に反対するデモ」に参加した時、少し嘲笑したような表情で多くの人々から見られたのを覚えている。それはあまりにも他人事で、物珍しいパレードでも眺めているかのようだった。日本は安全で安心だと信じている人が多いのか、不都合な真実からは目を背ける人が多いのか、平和ボケ甚だしい。権力者には忖度する国民性はきっと、香港人には理解できないだろう。
大きな時代のうねりが全地球的に起こり始めている。それは決して明るいものとは言えない。桃源郷を求めて旅に出る者、故郷と共にあろうとする者、それぞれに幸福な未来を求めて知恵を絞り、何かと闘うことになるのだろう。パラダイスはまだ見つかっていないのだから。人類が進化して平和を獲得できるのか、退化して全てを破壊してしまうのか、今は誰にも分からない。人の意志の力を信じたい。がんばれ、香港!
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