香港子育て回顧録 -これまでも、これからも
白井純子
愛知県出身。大学では日本国文学科専攻。北京電影学院留学中に香港人である現在の夫と出逢う。長男を東京で、次男を香港で出産。
2014年夏に9年間暮らした香港から大阪に帰国。帰国後に保育士資格とチャイルドマインダーの資格を取得。
2019年夏から息子達の留学のためバンクーバーに滞在中。現在の関心ごとは「Sustainability」。
変わる時代の変わらない友
あちらこちらと飛び回り、常に新天地を目指す生き方を選んだ私には、故郷の地にしっかりと根を張り、強くしなやかに生きている親友がいる。不安や不満の種を見つけては、そこから逃げることで幸せを手に入れてきた私とは逆に、不安や不満に向き合い、受け入れ、時に妥協することで彼女は幸せを手に入れてきた。彼女と同じ生き方をすることは私には難しい。けれど私は彼女に心底敬服している。
物心ついた頃から私たちは一緒にいた。気が強く負けず嫌いな私と、争わず控えめな彼女。支えられているのは常に私だった。大胆に思いつくまま行動する私は失敗することも多い。失敗して動けなくなった私を、なだめ、諭し、また動かしてくれるのは彼女だった。
今は不安定要素が多すぎる時代だ。考えすぎると気持ちが萎えてしまう時がある。東京、香港、大阪、カナダと、住処を変え続けてきた私の人生は、変化の連続なだけにタフでなければいられない。しかし、時に張り詰めた糸がふと切れたような気持ちになる。どこに向かったら良いのか分からなくなって途方にくれる。根無し草の宿命か。思わず、彼女に電話していた。
私の不安に理解を示し、一通り私の話を聞き終わると、今度は最近彼女の身に起こった出来事を淡々と報告してくれた。それは、私の抱える悩み事よりもずっと深刻な出来事なのに、彼女は弱音を吐くでもなく、前向きに一つ一つの問題を乗り越えている。彼女の結論は「感謝」だった。家族が一緒にいられて、変わらない生活が戻ってきたのなら、彼女は神にも家族にも感謝する。
更年期世代に入った私達の人生観はますます差が開き、彼女は「早くおばあちゃんになりたい」と言う。私よりも数年早く母親になった彼女は、孫を抱ける日を楽しみにしているのだ。加齢に抗い美顔ローラーをコロコロさせている私とは正反対だ。抗っても勝ち目のないものに、抗わずにいられる強さに感心する。
気に入ったもののみを取り込みながら生きてきた私と、置かれた環境の中で出会う苦境も消化してきた彼女、お互いが認め合えることが幸運だと今は感じる。
幸い、飛行機に乗れば、その日のうちに地球の裏側まで飛んでいける時代。インターネットに接続できれば、電話代を気にせずに話ができる時代。人は距離に邪魔されなくなった。これからもきっと私は飛び回る。根を張れる場所がいつか見つかるのか、見つからずじまいになるのか、私にも分からない。でも、私は私の生き方を貫き、疲れて立ち止まれば、変わらない友がいつもの場所で見守っていてくれる。そんな幸せをくれた神にも友にも感謝したいと思う。
